忍受小説

□日々草
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残酷だ…


「目ぇあけろよ侑士!!!起きろよ!!!」

深い眠りについた侑士の細い肩を,跡部は何時も揺すった。

しかし,彼は深い眠りについた。
それは目覚める事のない,深い深い眠りなのだ。

跡部の手をそっと止めた男がいた。
少し痩せたどこか侑士を思わせるように見える医師だった。

「貴方が跡部景吾さんですか?彼は息を引き取る前に景吾と譫言のように言っていましたよ…。」

それをきいて,跡部の悲しさは更に増すばかりだった。しかし医師は続けて,小さな子猫を差し出した

「死ぬ間際に抱いていた猫です…この子を庇って道路に飛び出したのかもしれません…。」

「侑士…バカヤロ…こんな猫なんか…。」

「どうなったっていいですか?」

医師は間髪入れずに跡部に真剣な瞳で問いかけた。

「彼が命をかけて守った小さな命です…。命はどれも尊い。彼のした事に悔いを感じる訳ではないけど,無駄にはしたくないと思わないか?だから跡部さん,貴方も変な考えを起こさないように。…そうだ…こんな言葉を知ってますか?輪廻転生。体はくち落ちても,その魂は生きるという話。もしかするとまた彼に会うかもしれない…。」

医師はそれだけ言い残すと,部屋を後にした。

侑士の腕には漆黒の子猫が抱かれていた。


その夜,侑士の姉と母は姿を見せなかった。


ちなみに,後でわかったことだが,あの医師は偶然にも東京の病院に出張にきていた侑士の父である事を知った。
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