忍受小説

□お正月パラレル企画
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ある山に暮らす小さな集落。一見どこにでもいる農民のようだが,それは“四天宝寺”という忍の村だった。
中でも長の息子である忍足侑士という忍の腕は,村一番と名高いものだった。

一方,そこから遠く東へいった山には,“氷帝”という忍の集落があった。そして,若くして長になった跡部景吾という男もまた,かなりの力の持ち主であった。

彼ら二つの忍は,昔から敵対しあってきた。原因は,一方の忍びの男が対する村の女を殺してしまった事から始まる。それからというもの怒りは争いを呼び,争いは争いを呼び殺しあいは何年も続いた。

しかし本来ならどちらの民も争いは好きではない。それは長の息子である侑士も同じだった。
その日侑士は,村から少し遠い山へ水を組みに行った帰りだった。
美しい川の流れに見入っていた。ふと足元に散った葉を拾うと器用に小船を作り,川に浮かべた。いつも気を張っている忍びとしては,らしからぬ行為だった。そして,緩やかな水の流れに浮かべた葉の船を目で追いかけていると,船を何者かが拾いあげた。

「…!?」

侑士は直ぐさま懐刀を相手に向けた。

「おっと…。初めての挨拶にしちゃ激しすぎるぜ…」

侑士が目を向けたそこには,見たこともない美しい男が立っていた。

「あんたは…?!」

「アーン?普通,名前は自分から名乗るものだって教わらなかったのかよお姫様?」

「………忍足侑士。女やないで。」

その一言に,彼はフッと小さく笑った。

「お前,男かよ…。その着物も着方も女じゃねぇか…。」

「俺の村ではまだ成人しない長の息子は女の着物を着せられるしきたりなんや。…で,アンタは?」

侑士は眼鏡ごしに鋭い視線を相手に向けた。

「…見ず知らずの人間に,あんまり色んな事は話さない方がいいぜ?」

「…何がいいたいん?」

「お前のその“忍足”って苗字 。四天王寺の長の名前だろ。確か三日前,長が不治の病で亡くなったと聞いたが…近々長になるっていうのは,もしかしてお前か?」

「何でお前がそないな事知っとるんや。まさかお前…」

侑士は一歩後ずさる。

「やっと気付いたか。お前はっきり言って,忍の長には向いてねぇぜ」

「なっ…」

侑士が言い返す間もなく彼はいつの間にか姿を消していた。
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