忍受小説
□跡部家妖怪伝
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跡部は誰かに呼ばれて目をさました。
「…お前は?」
どこか見覚えのある女性だった。白い着物を羽織り藍色の髪…そして狐のような四つの尻尾。
はっと気付いた。
それが、あの鳥居の奥の建物にあった像そっくりの人物であった。
「お前…まさか…!!」
「気付いてくれてうれしいわ。俺はあそこに住む、天狐の忍足いいます。よろしゅう。」
どこか色気のある笑みを浮かべ、忍足と名乗った尾を揺らしながら、俺の眠るベッドへと腰掛けた。
着物の隙間から見える肌は、雪のように白く艶があった。
まるで人間ではないような頭を殴られるような衝撃のある色気。
「俺は2999歳生きとる妖狐や。あと数カ月で、俺は神とも言われる空狐になれる。あそこは俺の家や。家壊されたら俺も黙っておらへんし、せっかくのこの世界におられる残りの時間をよそから来たあんたに壊されたくない。…せやから、あそこに何やら作るんは少し待ってくれへん?」
いきなり話しだした妖狐に跡部は驚きを隠せないものの、何とか口を開いた。
「壊すなと言われても、俺も急いでいる。…あぁ俺は夢を見てるのか?」
頭を抱える跡部の胸元に、妖狐の忍足はそっと手を当てる。
バスローブから開け放された跡部の胸には、忍足の冷たく細い指先の感触があったことに、跡部は夢ではないと確信した。
「…お前はそれを言うためにここへ…?」
「そうや…跡部サン。」
忍足は跡部の体に跨がり、ゆっくりと押し倒す。綺麗な髪がはらはらと忍足の頬を伝う。
「狐は女に化けて精気を奪うというが…」
跡部は忍足の着物帯に手をかける。
「俺も仕事上、そんな我が儘をきくのは難しい。だが、もし壊さなかったかったら、何かしてくれるのか?」
帯は床へ落ち、忍足の白い躯があらわになる。
「俺の家や…勝手に壊す方がおかしいねんで…?」
忍足は、跡部のバスローブの紐を解き、厚い胸板に顔を埋める。
「…あの建物は古い。俺が新しく作りかえてやる。それに毎日油揚げも備えてやるぞ」
「それって、暫く待ってくれる言うこと?」
忍足は首をかしげる。
「あぁ。正確には綺麗に立て直して、お前が空狐になれるまで待っててやる。ただし、それには、それ相当の条件が必要だぞ」
跡部は、いつの間にか忍足の放つ妖艶な香りに酔っていた。
「…勝手な人やなぁ跡部さんて…せやけど、えぇよ。その話のったる…俺はあんたに家綺麗にしてもらう変わりにあんたの家を護ったる」
「お前はあの辺一帯を護っている妖怪だと聞いたぞ。それはただの任務の一貫だろ」
「ちゃうよ。場所だけやなくて跡部さん自身もってことや。お家代々面倒みたるよ。」
「あぁ…随分と長い約束だな。まぁいいとしよう。」
「ほな、約束して…?指切りげんまんやで」
忍足は小指を差し出した。
「…こんなに色気ある誘い方をして、約束の仕方は意外と幼稚だな」
「なっ…なんやって!!」
頬を膨らませる忍足に跡部は笑った。
「俺との約束はこうするものだ」
跡部は忍足の腰を抱きしめ、もう片方の腕で忍足の顎を引き寄せた。
「…ずっと側にいてくれ」