忍受小説

□跡部家妖怪伝
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それからというもの、跡部は早速神社を建て直してやった。
見違えるほど綺麗になった神社に、忍足はひどく喜んでいた。色気があるくせに、どこか幼い表情を持つ忍足に、跡部は少しずつ惹かれていった。そしてそれと同時に、忍足は時々、空を見上げながらため息ばかり着いていた。


「なぁ、忍足。お前がもうじきなると言っていた空狐というのは、何なんだ?」

ずっと思っていた疑問を、出来上がった神社の小さな階段に並んで座りながら跡部は忍足に尋ねた。

聞かれた忍足は、俯き口ごもる。

「…空狐は、天狐から2000年生きた妖狐がなれる最上級の地位を持つ姿や…」

「ほぉ。それはすごいな…」

「せやけど、俺っもう空狐になんかなりたくない!!空狐は…天にかえらなあかんっ。俺、跡部と別れるの嫌や…」

忍足の頬には大粒の涙が伝っていた。賢吾は思わず、忍足を抱きしめていた。

「俺も同じだ!!どこにも行かせない!!忍足は、俺が護る…!!」


けれども泣き続ける忍足に、跡部は何度も口づけた。

「お前は俺をも護ると言った…約束もした。そうだろ?」

跡部の問い掛けに、忍足は頷いた。

「跡部…好きや…」

「俺も、愛してる」

二人はもう一度深いキスをした。
忍足の腕は、跡部の背にしがみつくように強く絡み、跡部もそれに答えるように何度も忍足の躯に朱い花を散らした。






「忍足…?」


明け方、跡部は目を覚ました。先程まで感じていた忍足の温もりがまだ腕に残っている。しかし、今跡部がいる場所は、二人でいたはずの神社ではなく、跡部が宿泊していたホテルのベッドであった。

「忍足…?忍足…!!」

直ぐさまあの森へと…神社へと向かった。



「ぉし…たり…?」











建て直したはずの神社は、前の古びた神社に戻っていた。そして忍足そっくりの像はなくなっていた。まるで、二人の時間なんて、忍足という存在なんて、初めからなかったかのように…。




「…どういうことなんだ忍足…!!!お前は俺を置いていくのか!?俺を護るという約束は…!!忍足っ答えろよ!!」

跡部はその場に崩れ落ちた。まるで子供のように泣きくれた。
泣いて泣いてやっと朝が来たとき、日の光りがまるでそこ一点を降り注ぐかのように、跡部の足元を照らした。

「…これは…」


そこには、太陽の光りでキラキラと輝く掌ほどの石があった。


『俺の代わりに、それを持っていて…』


何処からともなく声がしたかと思うと、降り注ぐ光りは辺りに散っていた。そして、その瞬間、跡部の脳裏から忍足の記憶だけが消え去られた。




「じゃ、ここ一帯はビルにしちまっていいんですね。」

「はい。他はお任せします」

それから間もなくして工事は始まった。

「社長さん。あの汚い建物は壊していいですかね?」

工事業者の男が東京にある本社に帰ろうとしていた跡部に声をかけた。

「あぁ…あの建物ですか。あれはだいぶ古いし使い物にはならないので、建て直してやって下さい。」

「え?建て直すって神社をですか?」

「はい。あと、そこにはこれを奉ってやって下さい。」

跡部は綺麗な布に包まれた石を取り出した。渡された男は、不思議な人だと首を傾げながらも言われた通り、それを建て直した。

跡部から忍足の記憶は消えたはずだった。しかし、跡部には何か得体のしれない穏やかな記憶だけが残っていた。


<<エピソード1…終>>
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