忍受小説
□-GAME-
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「今日はちょお早ぉ帰らせていただきますわ…」
夕方の7時、何事もなく仕事を終えた侑士は職場の席をたった。
「今日は恋人とイチャイチャするんか?」
隣の席の蔵ノ介が侑士の顔を椅子に座ったまま悪戯そうな笑顔で見上げてくる。
「何やっていいやろ。蔵ノ介もたまにははよぉ帰って、彼女安心させたり」
「彼女なんておらへんよ」
今までと変わって少し淋しげな蔵ノ介に、侑士はどぎまぎしながらも、またすぐに出来るんやろとフォローをしながらも部屋を出た。
暫くは蔵ノ介の事を考えていたものの、タクシーを拾って運転手に目的地の空港を告げる頃には、二ヶ月ぶりにロンドンから帰ってくる恋人の事で頭がいっぱいだった。
もう少しで大きな建物が見える。そこに差し掛かった時だった。
侑士の携帯が鳴った。景吾がかけてくるにはまだ早いが、便が少し速まったのかもしれない。
着信番号が非通知である事を察しながらも、侑士は電話に出てしまった。
「…もしもし?」
『今カラ俺ノ指定スル場所ニ来テクレ』
「もしもし?!あんたは…」
ヘリウムを吸って声を変えている…侑士は顔を曇らせた。
『俺ハ、今オ前ガ追ッテイル連続殺人犯ダ。素直ニオ前ガ俺ノ言ウ事ヲ聞クナラバ、捕マッテヤッテモイイ』
「…聞かなかったら…?」
『マタ人ガ死ヌダケダ。ソウダ…今度ハ君ノ大事ナ人ヲ殺シテアゲヨウカ?
一瞬にして侑士の背筋が凍り付く。
「…何が目的や?」
無意識に侑士の声は震えていた。
『今日、何ノ日カ知ッテル?』
「何の日やろ…わからんわ。教えてくれ」
焦る気持ちを押さえながら、侑士は相手をさぐろうと精一杯正常に振る舞おう。
『ハッピバスデー侑士君…今日ハ誕生日ダロ?』
「そうか…よく知ってるんやね」
『ズット見テ来タカラネ…。今1番近イホテルニ向カエ。部屋ハ102号室ダ。ソコデ逢オウ。コノ事ハ誰ニモ言ワズ一人デ来イ』
ガチャ…
相手はそれだけ言うと電話を切ってしまった。侑士は意を決したように運転手に告げた。
「ここから1番近いホテルに向かって下さい」
それから間もなくしてホテルに着き、侑士は辺りを見回した。しかし不振そうな人物は見当たらない。
「侑士…?」
聞き慣れた声に振り返ると、蔵ノ介が立っていた。
「蔵ノ介…どうしてここに…もしかして蔵ノ介も」
侑士の問い掛けに蔵ノ介は頷いた。