短編集

□笑顔の結晶
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よくは思い出せないけど、俺が駄々こねて無駄にデカイのを作ったなぁ。
親に持ち上げられてバケツ帽子を乗せた後、出来上がった雪だるまの周りで楽しくて跳びはねてたっけ。

それでその―――

「………だよ」

「えっ?」

思い出に浸っていたせいで、雪だるまの言葉が聞こえなかった。

「その顔だよ。その嬉しそうな表情を見たいから、僕はここにいるんだ」

右手を顔にあてると、無意識に笑っていたことに気付いた。

こんなに寒い中、温かい気持ちになるなんて思ってもみなかったから、今度はガラにもなく微笑んでしまった。

「たまには雪も良いかもな」

「でしょ?」

ったく、嬉しそうな声出しやがって。

不意に冷たいモノが鼻先に触れた。
雨かと思い夜空を見上げと、そこにはまるで天使の羽根のような白い粉雪が降り注いでいた。

「……覚えてて、くれたんだね」

「なにを――」

降る雪を追い掛けるように戻した視線が宙をさ迷った。

まるで最初から何も無かったように、全てが消えていた。
雪だるまも、雪だるまがいた形跡も、存在していなかったように消えていた。

「……何をだよ」

なにも言わずに消えるなんてあんまりだろ。仮にも雪の精霊なんだから。

「雪の、精霊……」


『きょうからおまえはゆきのせいれいだ』

ガキの頃、赤いバケツを乗せた後に雪だるまの名前を『雪の精霊』ってつけたんだった。

「……ったく、心配しなくても忘れてねーよ」

あの時の楽しい気持ちも、自分より大きかった雪だるまも。



例え

白い雪が足跡を覆い隠しても

歩いてきたことは

 忘れない。




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