短編集
□サクラサク
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僕達は笑顔で別れを決めたのは
桜が散りゆく季節だった。
寒い寒いと言いながら、春服に身を包む彼女をそっと見つめていた。
「もう行くの?」
彼女は驚いたように振り返り、それを僕は寝ぼけた身体を起こした。
電車の時間を間違えてた。
そう照れ臭さそうに笑う、彼女らしい間違いに思わず笑ってしまう。
「忘れ物とかしないようにね」
はいはい。わかってますよーだ。
今度はふて腐れる。
コロコロと変わる表情は彼女の魅力の一つであり、僕もその魅力の虜にされてしまった哀れな子羊なのだ。
いや、狼かも知れない。
「そろそろ時間じゃない?」
彼女が乗る時間なんて知らないが、きっとこのくらいだろう。
それは共に過ごしてきた僕の勘であり、あと何分かで必要なくなるものであった。
少し慌てて玄関を出て行く彼女に
「今までありがとう」と呟いた。
彼女とこれから別々の道を歩む。
恐らくもう会うことはない。
そんな気がする。
ああ、狼は飢え死にしそうだよ。