短編集

□ある晴れた雨の日
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雨は天と地を繋いでるって

誰かが言っていた




〃 ある晴れた雨の日 〃



「なにやってんだ…」

朝から降りしきる雨が、人の傘の上で軽快なリズムを奏でやがる日にも関わらず、三谷 圭介はずぶ濡れだった。

何故なら、小さな公園のベンチに座る圭介の隣には藍色をした傘が座っている。

これを奇行と言わずに何と言うか教えてほしい。

「傘があるなら―――」

(しぃー、静かに)

人差し指を口に当てて、黙れのポーズ。
そして、その指で隣の傘を指差した。

傘の中を覗き込むと、『割れ物注意!』と書かれた段ボールが一箱。

「段ボール・・・?」

(バカ! 中だよ、中。)

バカと言われたことに苛立ちと殺意を覚えながら、今度は段ボールの中を覗くと、なにかがすやすやと寝息をたてて寝ている。

白、黒、茶の三色の毛で被われたまるっこいそれは、どうみても……

「子猫・・・だよな」

(この子猫、雨んなかに捨てられてたから、冷たくなんないようにしてんの)

「だったら―――」

子猫が寝ていることを思い出し、圭介と同じように小声で言い直した。

(だったら膝の上に乗せて、傘をさせばいいだろ)

髪の毛から雫を落としながら、圭介はヘラヘラと笑った。

(だって、寝てたし、起こすの悪いじゃん)

自分より子猫を優先するなんて、君は拍手ものの大馬鹿だよ。

(それにさ、子猫の気持ちを知りたかったんだ。雨んなかに置き去りにされて、どれだけ寒かったか、どれだけ淋しかったか……)

(つーか、お前はその子猫じゃないんだから、完全に知ることなんて無理だ)

圭介はまた笑った。

(ちょっとだけで良いんだよ。大切なのは相手の気持ちになって考えることだからね)

まさに、正真正銘の大馬鹿ものだね。

傘を閉じて、ちょうど段ボール箱を挟むかんじに座った。
雨に濡れたベンチの座り心地は最悪だがこの際我慢してやる。

(な、なにしてんの!? 風邪ひくよ!)

(それはこっちのセリフだ。だいたい、こいつは淋しいんだろ? だったら、一人より二人の方が淋しくないだろ)

つーか、けっこう寒いな。

(サンキュー)

(なんでお前に礼を言われんだ)

(子猫の気持ちだってば)

寝てるのに礼が言えるなんて、器用な猫もいるもんだ。


E n D .

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