短編集
□ハルのカゼ
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「ちょっと、早すぎたよな。うん」
駅前の時計を見ると、集合の一時間前。
さすがに張り切り過ぎたかなとか思ったけど、これも思い出だ。
なんせ、その、初でぇーとってやつ?
だから早くアイツに会いたいんだ。
「やっぱ、一時間は早いかも」
+ー+ー+ー+ー+
それは突然のことだった。
──ガラガラッ
「お、裕也。遅刻だぞ・・・おぉ!?」
担任の瑞希先生が驚いて口をパクパクさせながら、俺とその後ろに隠れるように立つ少女を交互に見つめた。
そして、納得した顔で
「もう転校生に手を出すなんて、登校は遅いが手は早いんだな」
と言いやがった。
・・・ったく、朝っぱらなに言ってんだよ、この女教師は。
「迷子になってたから、連れてきただけです!」
「ま、いいや。それじゃあ、早速だが転校生さんに自己紹介をしてもおう!」
いやいや、なんもよくねぇですよ。ってか、俺はほったらかしかよ!
心中毒吐きながらも席に座り、壇上に上った彼女を見る。
「有沢 柚木です。よろしくお願いします」
そして、ペコリと一礼。
「えらく簡潔だな…まあ、いっか。
席は一番後ろの・・・西谷 裕也の隣だ」
いつのまにか、増設されていた席に柚木さんが腰かけた。
「さっきはありがとうございます。案内してくれて助かりました」
「別に感謝されるほどじゃないよ。てか、柚木さん敬語禁止。」
「え!?なんで?」
「なんか、敬遠されてるみたいだし、クラスメイトだからタメ口で良いじゃん」
柚木さんはなにかを考えるように、視線を下の方に外した。
「じゃあ」
再び戻した時にはなぜか嬉しそうに微笑んでいた。
「柚木『さん』ってダメだよ。裕也」
「・・・あっ、そっか」
あまりにマヌケなセリフに、柚木さ・・・じゃなくて、柚木は思わず笑いが吹き出していた。
それにつられるように、俺も自然に笑っていた。