短編集
□真夏のペンギン。
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「ねぇ、夢ってなんだろうね」
高校生最後の夏休み。
図書館で宿題を一通り終えて、テーブルにうつぶせになっていた私は、気まぐれにそう思った。
「夢って、その人がやりたいこととか、生き甲斐だと思うよ」
向かいの席に座る小夜が、私の気まぐれに答えてくれた。
ついつい、真面目だな〜。と心の中で感心してしまう。
「小夜は夢ってある?」
「あるよ。私、童話作家になりたいの」
キッパリとそう言った。眼鏡の奥の瞳は輝いてて、ちょっと羨ましく思った。
だって、思いっ切り夢追い人って感じだったから。
「加奈ちゃんの夢は?」
「私は……ない」
何となく、窓の四角い空を見る。
「加奈ちゃん、嘘吐くと視線外すよね?」
す、鋭い…… 流石、我が親友。
「昔はね…… 昔は歌手になりたいって夢があったワケさ。
けどさ、高校生ぐらいになるとわかんのよ、みんながみんな、空を飛べるわけじゃないって」
ガラにもなく変なことを言ったから、ちょっと顔が熱い。
それを知ってか知らずか、小夜は「詩人だね」って言いながら笑ってる。
……つーか、微妙にからかってませんか?
「飛べないなら、走れば良いじゃない。走って追いかければ、ちゃんととどくよ。夢って最後まで追いかけた人だけがつかめるものなんだよ」
そう言われて、思わず小夜を見つめた。
小夜がキッパリと言い切れたのは、ちゃんと努力して、夢を追ってるから。
だから、輝いて見えた。
嘘を吐いたからじゃなくて
それが、眩しくて目をそらしたんだ。
それに比べて私は
いったい、なにがしたいんだろ……
「いまからでも遅くないんじゃない?」
「えっ……?」
「途中で止まっても、また走り出せば良いんだよ。その分、頑張らないといけないけどね」
そう言って、照れ臭そうに笑った。
流石、我が親友。頼りになるよ。
「うしっ!じゃあ、ひと泳ぎしますか!」
「えっ……?」
今度は小夜が呆気にとられた顔してる。
「だって、「走る鳥」なんてダチョウのことっしょ? そんなブッサイクな鳥より、私はペンギン派よ! 泳いで夢を追いかけてやるんだから!」
ずっとやり残してた宿題。
いまでも遅くはないんだよね。
高校生最後の夏休み、どこまで泳げるか
……やってやるよ!