短編集
□笑顔の結晶
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こんなの
嘘……だろ?
笑 顔 の 結 晶
「……だから、そこのバケツを乗せてってば」
「………」
朝から昼にかけて珍しく降り積もった雪のおかげで、銀世界に変わった夜の公園のど真ん中。
阿呆みたいに立ち尽くす俺の前には、身長160cmの雪だるまさん。
「おーい、聞こえてる?」
「ちょっと待て」
これは何かの冗談か? もしくは、ドッキリカメラ?
いや、冬の午前3時に命懸けでボケをかます奴はいないだろう。いたら国民栄誉賞をくれてやる。
「バケツがないと寒いんだか――」
「………」
「って痛い痛い! 無言で蹴らないで!」
「あ、わりぃ」
状況を飲み込めてない為か、思わず脊髄反射でツッコミをかましてしまった。
――にしても、喋る雪だるまさんは寒さに弱いのか?
「……バケツ」
「わかったよ」
とりあえず疑問は置いといて、足元に転がっている赤いバケツを乗せてやった。
赤いバケツ帽子に竹箒の腕、大小様々な石で作られた顔のパーツ。こうして見ると、喋る以外はごく普通の雪だるまだと改めて認識する。
しかし、懐かしい感じのする雪だるまだな。
「ありがとう! 助かったぁ〜♪」
その雪だるまは、人間なら跳びはねてそうな声色で喜んでいた。
「それは良いけど、何で喋れんの?」
少し話しを本題に戻そう。
いくら非科学的な現象がそこにあっても、何かしらの説明は……
「僕は雪の精霊な――ってなんで蹴るの!」
「いや、ツッコミだから気にするな」
まあ、蹴っておいてなんだが、非科学的な現象の説明が非科学的なのは当然かもしれない。
「で、雪の精霊様がここでなにやってんだ」
「なにって、みんなの笑顔を見に来たんだよ」
きっとまともな理由がある、そう思っていた俺は呆れて溜め息を吐いてしまった。
「このご時世、雪なんて迷惑だ」
「なんで?」
「寒い、電車が遅れる、濡れる、滑る」
「それってただの我が儘……」
どうやら、この雪だるまさんは一言多いらしいな。
「ところで、雪だるまを作ったことある?」
「まぁ、あるけど、ガキの頃に一度だけな。親に手伝ってもらって大きいのを作ったけど……それがどうした?」