Seyn―小説集―

□類と夢
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「まあ、そうですねえ。僕にもよく分かりません。あの患者でいったい何を上の人達がやろうとしているのか」
─精神科の仲間が言っていた資料作成のためのレジュメを木田はその晩、自宅で読んでみた。読んでみたが、その内容はといえば、仲間に聞かされた通り、やはり何を調べようとしているのか、よく把握できかねるものであった。“ 各人が患者と交わしたすべての会話を録音し、書面とし、提出せよ ”というごく簡単な指示が、そのレジュメには書かれていた。何だこりゃあ、と木田はひとり言を言い、しばらくあれこれと想像していたが、じきにどうでもよくなって、それからおもむろに、机の上の携帯電話を掴み、電話を掛け始めた。数回の呼び出し音が鳴った後、「もしもし?」と相手が出て来た。電話に出て来たのは、木田の恋人の上原友里子だった。「今、どこにいる?」と木田は聞いた。「何で?」と上原は聞き返して来た。
─「何でって、ただ聞いただけだよ。どうしてるのかなって。だって、今日は一緒に晩飯食べようって言ってあったじゃない。それを昨夜の電話で君が断ったから、よっぽど大事な用でもあったんだろうって思ったのさ」
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