Seyn―小説集―

□愛のかたち
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─彼女と別れることになった。彼女からのその電話が来たのは、僕がこの、N町の建設現場に入るためにN町近郊のアパート暮らしを始めた2カ月目の或る日のことだった。
─多忙なゼネコンの現場の仕事のために、電話こそ週に一度はしていたが、実際にデートをすることなど不可能になっていた。それでも僕は彼女のことを忘れたことはなかった。現場に通うために会社が用意したアパートの机の上には彼女の写真が飾ってあり、僕はその写真を見ながら、いつの日か彼女と結ばれる日が来るのを信じて疑わなかった。でも、結局彼女は僕と離れている2カ月の間に昔付き合っていたカレとのよりを戻し、そちらの方との精神的結び付きの方が僕よりも強くなってしまった。それは電話で彼女から直に聞いた話なので間違いはないと思う。
─彼女はいなくなってしまった。僕の心の中にはどこかぽっかりと大きな穴があいたかのように思われた。現場の仕事中こそ、それまでと変わらずにガンガン働いてはいたが、いったん仕事が終わると、もぬけの殻のように僕は気力がなくなった。そんな僕を心配した現場の所長が、僕とあと他の監督数名をつれて飲み会を開いてくれたりもした。
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