テニプリ文置き場

□桜と春と君と
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「桜………綺麗だね」






「ああ、綺麗だ」





 学園の中庭から外れた一角に寝転んでいる不二と手塚の頭上には、満開の桜の大樹が一本。

 仰向けに広がる視界には、桜の花とその隙間を埋めるように時折見える蒼い空。

 暖かい陽光と、まだ少しだけ冷たい風が頬に気持ちいよく、ときどき風と戯れながら舞い散る花びらが頬を掠めていく。





「……ねぇ…手塚…」

「なんだ」


「今年で最後だけど、行けるかな。……全国へ」




「行ける。必ず俺が全国へ導く」




 桜と、遥か彼方の宙(そら)を見上げながら、簡潔に、だがとても厳かにそう手塚は断言した。


「それに、俺だけじゃない。ダブルスには大石と菊丸がいる。乾と河村も実力はたいしたものだし、桃城と海堂もこれからまだまだ伸びる」

 宙の果てのさらに向こうを見つめて言う手塚を、不二は少し遠い人のように思った。



「うん……そうだね」





「それに……不二」




「ん?」




 宙から、視線をはずし、頭の下で組んだ腕をそのままに顔だけ動かすと、




「お前がいる」







 傍らにいる不二の瞳をとても真摯に真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐに見つめ、囁くように言った。












 ひらり

   ひらり







 舞い散る花びらがやけにゆっくり見え、僕と手塚の絡まった視線をほんの一瞬、だけど随分永く遮って、ふわりと優しく静かに大地へと触れた。




「…………ウン」



 不二は、上体を起こして顔だけをまだ寝そべっている手塚に向けた。



「僕も頼りにしてくれるんだ?」

 嬉しさで顔が綻んでしまう。




 それも、次の瞬間には凍り付いてしまったが。





「何を言っている?」


 言葉とともに訝しげに眉根が寄せられる。




「えっ…………?」






――――急転直下。






 手塚の言動に振り回さる。
 感情の起伏が激しくて反応がついてこない。




 自分の言動に振り回される不二が珍しい。顔には出さないが、いつだって人の言動に心を乱されるのは、手塚なのだから。



 だから。




「こんなに必要としているだろう………?」

 そう言って不二の手首を掴むと、自分の胸の上へと引き寄せた。

「あっ………」



 決して乱暴だった訳ではなく、寧ろ優しく不二の体を片手で支えながら引き寄せたのだが、動揺する不二には、それさえも一瞬の出来事で。

 そのまま手塚の胸の上へと倒れこむ。




「何す……」



 抗議の言葉は切れて、瞳は驚きによって大きく見開かれた。



 だって、そうだろう。


 手塚の綺麗な顔が本当に目の前にあり、尚且つ自分の唇をやんわりと仄かな熱が包んでいるのだから。






(睫毛、やっぱりながいや)
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