テニプリ文置き場

□桜と春と君と
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 感情の変化についてこれない不二は、状況への疑問を持つより先に、手塚の睫毛の長さに感心してしまった。

 触れていただけの唇が離れていく。そのかわりに閉じられていた瞳がゆっくりと開かれていく。




「どうしたの?君からこんなことするなんて」

 手塚の唇が離れてから少し経って、ようやく不二は質問らしい質問をした。

 手塚は、黙って桜の樹と宙を見ながら考えている。




「わからない……」




 唇から零れた言葉は曖昧で。





「……ただ………」



「ただ?」


「降りしきる花びらを見ていたら…何故だか…不二に……触れたいと思った………」

 不二を見つめながら、自分の中にある何かを探るように言葉を紡ぐ。

 だがそれは、手塚にしてみれば必死に自分の行動を分析したのだろうが、肝心なところが抜けている。

 不二は理解しようと、自分なりの解釈を入れる。



「つまり、散っていく花びらを見て感傷的になっちゃって、寂しくなったんだね?」

「ちが、う……」




 違う。

 そうではなくて…。


 寂しいのではなくて……。



 なんだか……もっと………こう………




 正体不明の気持を捕まえようと、より意識を深層の海へと追いやろうとした刹那、不意に桜の花びらが視界をかすめていった。


 そのとたん、手塚の瞳からは透明な雫が滑り落ちた。


「……えっ…て、手塚!?」


何の前触れもなく涙を流しはじめた手塚に、不二は慌てて胸の上から起き上がろうとした。

 しかし、手塚の腕が肩に回され、しっかりと抱き締められてるのでそれは叶わなかった。

 だから不二は、変化していく手塚を静かに見守るしかなかった。




 少し見開かれた瞳は次第に細められ、眉間に皺がよる。

 そして、込み上げてくるおえつを噛み殺すようにきつく、きつく唇を噛み締めた。



 少し見開かれた瞳は次第に細められ、眉間に皺がよる。

 そして、込み上げてくるおえつを噛み殺すようにきつく、きつく唇を噛み締めた。

「手塚………」
 心配するように自分の肩に回された腕に、そっと手を掛ける。

 その途端、不二を抱き締めたまま横を向いてしまった。


そして、手塚は声もなく泣いた。



 手塚は寂しかったのではなく、悲しくなったのだ。


散っていく花びらに未来を見た気がして。







 不二が好きだ。


 だが、不二はどうだろう?


 確に今は俺を好きでいてくれる。


 だが、これから先は………?


 出来るだけ気付かないように、考えないようにしてきたのに………一瞬の隙をついて桜が……開くつもりのなかった蓋の紐を解いてしまった…
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