【オハナシ】
□A HAPPY NEW YEAR
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大掃除と新年の準備ができたら、その年の仕事は全て終わりだ。
年越しそばを食べ、家族揃ってのんびりとTVを見る。
日付の変わったその瞬間に皆で「おめでとう」と言い。
そのまま近所の神社に初詣に行く。
──それが、黒崎家の長年の習慣だ。
* *
今年も一護は家族とTVを見ていた。
カウントダウン番組のスペシャルゲストはドン・観音寺。
遊子と一心が盛り上がり、夏梨は呆れ顔でそれを眺めている。
一護は、TVには全然集中していなかった。
うわのそらで、ただ時計の針を気にしている。
──年が明けるまで、あと、5分。
我ながらバカバカしい、と一護は思った。
あの星空も月も地球の回転も、何も変わらない。
いつもと同じ夜のハズなのに。
人間が勝手に決めた年号なんて数字が、ただひとつ変わるだけなのに。
──あと、3分。
家族に怪しまれる訳にはいかない。
…あいつに悟られるのもゴメンだ。
──あと、1分。
一護は何気なく席を立ち、階段に向かう。
「お兄ちゃん?どこ行くの?」
すぐに遊子が聞いてくる。全くもって予想通りに。
だから、一護は準備しておいた返答を返す。
「寒いから、部屋から上着取ってくる」
「そんな!時間無いよ!!」
「すぐ戻るって」
今まで、年が明ける瞬間は家族全員揃っているのが当然だった。
でも、悪いが今年はどうしてもやりたい事があるから。
一護はそのまま階段を上がる。
とにかく、何気ないフリを装って。
階下の家族に怪しまれないよう。
そして、部屋にいるあいつに悟られないように。