【オダイ】
□「猿と煙とナントカは…」
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「さっき話の途中だっただろ。降りて来いよ」
私の態度が悪いことは気にしないのか、一護は普通に話し続けた。
……そうだ。先程授業が終わった直後、私の方から奴に話しかけたのだ。
しかし、それは他愛のない、本当にどうでもよい話で。
わざわざ今更むしかえすような内容ではなかったので。
「…いや、もういいのだ」
私は、ただそれだけ答えた。
「あぁ?──じゃあ帰ろうぜ」
「私はもう暫くここに居る。貴様1人で帰ってくれ」
「……………」
変な奴だと思われるだろうか。
しかし、今のこの惨めな自分を奴に晒したくはない。
1人でもう暫くここにいれば、きっと気分も軽くなる。その後帰れば、何事も無かったように振舞えるはずだ。
「……分かった」
一拍おいて、一護の返事が聞こえ。
同時にザッと足音が聞こえて。
ああ、帰るのだなと思った瞬間。
「お前が来ないのなら、こっちから行くからな」
「…何?」
慌てて、下を見ると。
一護は既に木に手をかけ、身軽に登り始めていた。
登る奴の動きに合わせて伝わってくる僅かな揺れと、軽く木が軋む音。
「な、何故来る!!私は帰れと言ったのだ」
あっという間に隣に来てしまった奴にそう言うと。
一護は私の顔を覗き込んで、言った。
「そんな沈んだ顔してるお前置いて、帰れるか」
「……!!」
見透かされている…。
驚く私をよそに、一護は周囲を見回して呟いた。
「久しぶりに登ったけど、キモチイイなあ」
「……ああ。気分が晴れない時は、ここが一番だ」
一護の言葉につられ、私が思わずそう答えると。
奴はまた私の顔を覗き込み。
「──で?」
「え?」
「今のお前の『気分が晴れない』理由は?」