自由人夢

□夜の華に惑う
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「うわああああ!!!!!!忍どういうつもりだ!!!!」
「ひでぇよにーちゃん!!オレはお化けが大っ嫌いだって言ってんだろッォォ!!!」

突然轟音と瓦礫の嵐が襲い掛かる。
ただでさえ呆然としていた私に危ないとか避けなくちゃ、なんて考える暇さえなかった。
けれど不思議な事に椅子に座ったままの私は無傷で、瓦礫だけでなく風さえも私を避けて通っていく。
口の間から声にならない声が漏れ出したけど、それも誰かの怒声に掻き消される。
反射的にそちらに目を向けると日本刀を持った男と巨大な斧を持った男が一様に怒りを露にこちらを睨みつけていた。
この状況に疑問は尽きないけれど、私は今死ぬんだろう。
あまりにも圧倒的で露骨な“死”を目の前に、一瞬で痛みなく逝きたいとか葬式に使えるいい写真あったか…諦めるしかない。

「兄者にリキッド…危ないじゃないか…。」

死を覚悟した私の後ろから批難を口にする聞きなれた低い声。
何処から取り出したのか、何か杖を持って私に同意を求めるような視線を向けるけど声が出ない。

「人に亡霊送り付けといてなんで文句言われなきゃいけねーんだよ!!本気で怖かったんだからなにーちゃん!!」
「ちょい待てリキッド!」
「あだっ!!」
「おい忍!どういう事か説明しろ!…悪ぃな、なんかうちの弟が迷惑かけてるみたいで…。」
「…え………は、い、いえ…?」

こちらに迫っていた金髪の斧を持った男は後ろに伸びていた黒い髪を引っ張られ、不満気な視線を引っ張った張本人とママさん、私の順に向ける。
逆に黒髪の刀を持っていた男はついさっきまでの気迫は消え、本当に申し訳なさそうに私を見る。
色んな視線を向けられて更に混乱する頭でまともな言葉が出せる筈もなかった。

「二人に彼女を紹介したいから呼んだだけじゃないか…。」
「それで亡霊使うなよ!!」
「あれは弟のリキッド。ちょっと頭の弱いヤンキーだけど、良い子なんだよ…。刀を持ったのが兄の乱世で…あと、まだもうこんな時間だから呼ばなかったけどヒーローって言う小さな弟がいるんだ。」

私が金髪…リキッドさんのツッコミに全力で同意しているとボソリとママさんの紹介。
確かにさっきから一番言動も荒くて怖いけど、それでも彼に対して同情を禁じえない。
そんな私の思いやリキッドさんの睨みは存在しないかのように、ママさんは身内の紹介を続ける。
ぼんやりと四兄弟なのか、次男なのか、この二人大変だなぁとぼんやり考えていた。

「…で、忍。その子はどちらさんなんだ?」
「フフフ…忍の将来のお嫁さん。」
『ええ!?』

上機嫌に笑いながら放たれた言葉にリキッドさんと乱世さんと、私の声が見事に重なった。
いつの間に私はこの人と婚約していた?あれ。私さっき返事したっけ?
ああ、そういえば今何時?さっきママさんが終電が無くなると言ってからなんだかんだでだいぶ時間が経ってしまったはず。タクシーだといくら位掛かっちゃうんだろうなぁ…。
私も一緒に叫んだ事にお二人が更に驚きを濃くして私を見ている中、その視線から…現実から逃げるように思考を働かせる。

「…そう言えば…名前は?」

声につられて顔を上げればそこには美形でイケメンな男性。
これを本気で女の人と思ってたとか、自分本当にバカだなぁ。
そう思いながら零した自分の名前はご兄弟二人の盛大なツッコミの嵐で掻き消されて届いたかどうか分からない。
とりあえず…家に帰りたい。
けれどそれを言う事もできず、もう氷が殆どなくなった水と一緒に飲む込んだ。
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