自由人夢

□ニックネーム
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止血をしながらも、当然のように胸を張って言う汚物子。
…確かにそうだね。忍もクーりんにニックネーム…つけてあげたし、ね。

「それとも…気に入らなかった?“しーちゃん”。」
「ううん。そんな事ないよ…。フフフ…忍、初めてニックネーム付けてもらえて…嬉しいな。」
「えへへ〜。私も喜んでもらえて嬉しいなぁ♪“しーちゃん”…へへ、“しーちゃん”v」

嬉しそうに笑いながら何度も忍のニックネームを言う汚物子。
フフ…。可愛いらしいね…。
そういえば…。忍、女の子の事、“可愛い”とか思ったのも…初めて。
なんでだろうね?
汚物子に会ってから、忍…ずっとドッキドキだよ。
初めてだよ。こんな気持ちになったのは。
なんだかそう思い始めたら、彼女が呼ぶ“ニックネーム”が複雑に思えてきた。
…なんでだろうね?

「ん〜?どーしたの、“しーちゃん”?」
「…なんでもないよ?」

忍の顔を覗きこむ汚物子。
いきなり間近に迫っていた汚物子に、一瞬、忍の心臓が大きく動いたよ?
驚きすぎて、カッターを持つのも忘れちゃったよ。

「そう?じゃあさ、私にもニックネームつけてよ。」
「汚物子に?」
「うん!」

子供みたいに、目を輝かせて忍を見つめる汚物子。
汚物子に…ニックネーム?
……………………………………………………………………………………。
………あれ?

「“しーちゃん”?」
「…ごめんね。なんだか…思い浮かばないんだ。汚物子には、汚物子って言う呼び方しか思い浮かばない。呼びたい、って思う物がないんだ…。」

素直に思ったままを言っちゃったけど…。
良くなかったかな。
楽しみに待ってた汚物子に…悪い事、言っちゃったかな。

「…………汚物子…?」
「………………………………………………………………………よっし!じゃあ、今日から私のニックネームは、“汚物子”ね!」
「…え…?」
「まぁ、本当はちゃんとニックネーム、付けてもらいたいけど…。“しーちゃん”が私の事“汚物子”って呼びたいなら、私はそう呼ばれたい。だから、私のニックネームは“汚物子”に決定!オーケー!」

だいぶついていけてない忍をよそに、汚物子は一人でてきぱきと話しを進めてた。
結局、忍は全然口出ししないまま話しは終わっちゃったみたいだね…?
勿論その結論に異存はない。

「…でも、本当に…いいの?」
「うん!いいの、いいの。だって私はただたんに、今ニックネームつけてもらっておけば、将来、楽しいだろうなって思っただけだから。」
「……将来?」
「うん。私が“しーちゃん”と恋人になったときv」
「…………。」
「はいはい。切らせませんよぉ。」
「…汚物子…。」
「あれぇ?“しーちゃん”って、鋭そうに見えて意外と鈍感?私さぁ、“しーちゃん”に一目惚れってやつをしちゃったんだよ。んで、話してみてもっと好きになっちゃったの。だけど、やっぱ初対面でいきなり『付き合ってくれ』…なんて言うのも、アレだから、最初はその1歩手前の心友。んで、もっと“しーちゃん”の事を知って、好きになったらそれを伝えようと思ったの。」
「…。」
「でもさ。心友から恋人になっても、特に何も変わらなかったらつまらないでしょ?だから、心友のうちはニックネームで、恋人になったら名前を呼び捨て。そうすれば変わり栄えもあって、『あぁ、恋人に昇格したんだな』って思えるじゃん!」

…言葉を失うって、こういう時に使うんだね。
忍、あんまり経験がなくって、頭のどこかで冷静にそんな事を考えちゃたよ。
つまり…汚物子は、忍のことを………。
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