新旧パプワ夢

□チョウ・下
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あの人はあの蝶そのままだ。
その美しい姿で私を魅了し、視線を外させない。
火傷をさせないようにとさり気ない優しさをもって、私の周りを飛ぶ。
そして…。
その口は声を持たない。
何も語ってはくれない。
私を虜にしたまま、ヒラヒラとどこかへ飛んで行ってしまう。
何も告げないまま。





チョウ・下







無色な日々。
なんて言葉が似合うんじゃないかと思う。
特戦部隊がガンマ団を脱退してからもう長い時間が経過してる。
その間、私の生活から色が消え失せた。
ただただ…もう側には居ないあの人を想い探し続ける毎日。
先日。シンタローの弟のコタローくんがガンマ団を逃げ出して大騒ぎになってる。
それすらも私にはどうでもいい事。
でも、ミヤギにトットリにコージ…アラシヤマがその捜索でいなくなってしまったのは…正直、寂しい。
だから最近は余計に気分が滅入る。

「ハァ…。」

溜息を一つ吐いてから、ケータイをしまう。
着信なし。新着メールなし。
もう見慣れたから、そろそろ違う文字を見たいよ。
そう思ってもないものはない。
また溜息を吐いて手に持った書類を簡単に整える。
これをマジック様に…ねぇ。
多分コタローくん関係の物なんだろうな。
特戦部隊の事もコタローくんの半分以下でいいから探してほしいよ、マジで。
逆恨みだと分かりつつも、コタローくんが恨めしくなってくる。
仏頂面でそんな事を考えてる間にマジック様の部屋に到着。
特戦部隊のこと、話してみようか…

「何ッッ!?ハーレムがあの島に上陸しただとッッ!!!」
「ハッ…。一昨日、例の海域で特戦部隊の飛行船がレーダーに確認され――…。その後、消息が途絶えました。おそらくはそのまま島へ向かったのではないかと。」





――偶然耳にした。


…な………。
今…なんて……?


――ひだまりの中で息をしているようだった。


『特戦部隊の飛行船』
………マーカーさん………。


――懐かしい名前。
  響いた胸の奥。


マーカーさん…。


――鮮やかに全部
  肩に残るにおいまでも


マーカーさん!!


――まだ覚えていた。


気付いた時には書類もその場に落として、走り出してた。


――春と夏と秋と冬を過ごした。
  なぜかいつも振り向きながら。


モノクロな古い思い出が色彩を宿す。


――春と夏と秋と冬をこうして。
  暗い森を彷徨いながら。


周囲も彩を取り戻す。


――春と夏と秋と冬を二人で。
  他の誰も愛さぬように。


止まっていた私の時間が動き出す。


――春と夏と秋と冬をこうして。
  他の誰も見えないように。


“現在”を走り出す。


「…よし、動く!」

情報によればコタロー様もこれと同じやつで逃げ出したらしい。
なら、これで行けるって事よね。
皆が行った…島に。
エンジンを思いっきりかけて、海へと出る。
“例の海域”って奴も場所は把握できてる。
別になんの迷いも躊躇もない。
私はただ、愛しの愛しのマーカーさんの元に行くってだけなんだから。
無線から聞こえる誰かの声も聞こえないものとして、ひたすら突き進む。
秋風が顔に強く当たって、冷たくて痛い。
そういえば、今は秋だったっけ。
ぎこちない速さで動いていた私の中の時間が、徐々になだらかに元の早さに戻っていく。
マーカーさんへの距離が近づくにつれて…。
マーカーさんに会えるなら何もコワくない。
こんな渦の一つや二つ、なんて事ないんだからっ!!!!!
かかって来いや渦〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!恋する乙女、なめんなよぉぉっ!!!!
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