自由人夢

□ニックネーム
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こんな女(ひと)に会ったのは初めて。
明るい声と言葉と笑顔と差し出された小さな手。
なんだか気恥ずかしくて…嬉しくて………でも、びっくりしちゃった。
だから……思わず、手首切っちゃったんだ。


「ぶわぁ〜〜〜ん!!!忍が、また手首切ったぞ〜!!!!!」
「あ〜…ったく。だから言わんこっちゃねー。」
「おーい!?忍、大丈夫か?」

フフフ…。ヒーローは泣き虫さんだね。
それにリキッドも…。もう少し兄者みたいに、少しは心配してくれてもいいのに…。
忍だってれっきとしたリッキーのお兄さんなんだから。

「悪いな、汚物子ちゃん。うちの弟、人見知り激しくてよぉ。握手なんか求められたのも久しぶりだったんだよ。」
「あ、全然大丈夫ですよー。それより…すっごぉい。私、鼻血をダァラダラと流してる人だったらいっぱい見た事あるけど、手首自分で切って血を出してる人は初めて見た!」
「んな事で感心してんじゃねーよ。」

リキッド、ツッコミ上手だね。
これならきっと立派なツッコミ芸人になれるよ。
…ほら。そこのサブローさんもそう言ってる。
それにしても…忍、手首切ってあんなに喜ばれたの…初めてだよ。

「うわぁ〜…流れてる流れてる。…え、と…忍さん?生きてますかー?」
「……。」
「あ、生きてますか。じゃあ止血しますから、なるべく動かないで下さいね。あと、止血してる時は切らないで下さいね〜。」
「…兄貴。いいのか?あいつに兄ちゃんの止血させて。」
「やりてーって言うなら、やらしてやりゃいいだろ。」
「乱世…実は自分がやりたくないだけだろー。」
「…………………ヒーロー!ちっせい頃から、んな屁理屈言うんじゃねぇ!」
「図星かよ、兄貴…。」

忍が汚物子の事を考えてたら…その、汚物子が忍の腕を持ち上げて手首から流れる血を眺めてた。
やっぱりそんな事をしたのは汚物子が初めてで、ちょっぴり驚いて顔を上げたら、汚物子がニッコリ忍に笑いかけてくれていた。
ドキッとして、思わず忍…手首切りそうになっちゃった。
…だけど、カッターを持とうとした途端にまるで忍の考えてる事を見ぬいたみたいに、ズバリと禁止された…。
少し残念だけど…キミが言うなら、切らないでもいいかな…。
そう言えば、忍、女の子に止血してもらったのも初めてだよ。

「よっし、完璧!どうですか、上手いモンでしょ?」
「…うん。ありがとう…。」
「いえいえ〜、どういたしまして。…………って、あぁッ!!」
「わっ!?なんだ汚物子どうした!?」
「忍が剃刀構えてる〜!!!!」
「忍〜〜〜!!ヒーローが泣くからもう切るなぁっ!!」

兄者…忍の心配じゃなくて、ヒーローの心配なんだね。
忍、ブルー入っちゃうよ。
だけどリキッドに剃刀取られちゃった。
…まぁ、ポケットにまだ予備がたくさんあるんだけど…。

「汚物子〜。忍はほんのちょっとの事で、すぐ手首切っちゃうから、あんまり大きな声出しちゃダメだぞー。」
「ごめんごめん。つい。」

兄者もリキッドもヒーローも…皆青ざめてるのに、汚物子だけは元気だね。
フフ…。やっぱり、汚物子は面白いね…。

「だってさ、さっき忍さんが『…うん。ありがとう…。』って、言ったんだよ!」
「…は?」
「だから、喋ったの!私に!」
「…で…なんだってんだ?」
「だってさっきは、私が自己紹介して握手求めたら、いきなりバシュッ…って切っちゃったじゃん。だから、さっきの言葉が私に対してファースト・ワードだよ!」
「汚物子?それがどうしたんだ?」
「え?別にそれだけだけど?」

キョトンと事もなげに、そう言った汚物子。
そんな彼女を見てヒーローも不思議そうな顔をしてる。

「フッ…。」
「「「「 ? 」」」」
「クク……クックックッ…フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ…。」
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