自由人夢

□自殺マニア
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今日はクリスマス。
まぁ、だからと言って浮かれるような年齢でもないけど。
だからいつも通り布団の温もりを惜しみながら、のっそりと布団から起き上がった。
すると…なんとベッドの脇に見覚えの無い大きな靴下が。
しかもそれは角ばっていて、中に何かが入ってるのが分かった。

「サンタ…さん?」

まさか。そんなのありえない。
この世にサンタクロースなんて存在がいるだなんて…。
いや、仮にいたとしてもあの白髭爺が来るのは“良い子”のところ。
私は“良い”であるとしても、“子”じゃない。
怪しがりながらもその靴下を手にとって、中身を取り出してみる。
赤と白の見るからにクリスマスな靴下の中に入ってたのは、やはり赤と白のラッピングの小さな箱。
ん〜…虫の屍骸がビッシリとか?もしくは小型爆弾?
どっちかって言ったら爆弾の方がいいなぁ…。
そう考えつつ恐る恐る箱を開けてみると、そこには虫でも爆弾でもない…古びた紙が1枚入ってた。

「なにこれ。」

思わず拍子抜け。
安心とちょっとした落胆。
ついさっきまで緊張していた自分を馬鹿らしく思い、その紙を手にとって見た。
………………その瞬間。このサンタの正体が判明した。
よく辺りを見渡すと、そこにはその正体を確固たるものにする物が点…点…と、足跡のように残っていた。

「あいつ…私に何の恨みがあって…。」

さっきも言ったけどクリスマスを特別視してるわけじゃない。
だけど…やはりクリスマスの朝にこんな事をされると、他の日にされるよりも悪質さが増している気がする。
私は手早く着替え、紙…文字と謎のマークが血文字で書かれた不気味極まりないお札を握り締めた。
そして、靴下付近から窓へと続く血痕を追って犯人の下へと向かった。

***

「…何をしている。」
「うわっ!?ク、クラーケン!ビックリしたぁ…。」

真っ白な雪に映える鮮やかな赤の血痕。
それをひたすら追って歩いていたら背後から声をかけられた。
そしたらすぐ真後ろに人!

「あなたこそ朝から何してるの?」
「昨日の夜は英雄たちが集まって酒を飲んでいたせいで城の中が酒臭くて仕方がない。」
「あー…それで、気分転換に?」
「そんなところだ。」

酔っ払って騒ぎまくるオッサンたちの姿がすぐに想像できた。

「それで貴様は?」
「…コレ。」
「……………………。」
「気持ちはわかるけど無言で立ち去らないで!」

私が足元の赤い点を指差した瞬間、クラーケンはスッと私から離れようと歩き出した。
それは予想できた行動だったので慌ててすぐさま服を掴んで留まらせる。
振り向いた時に見えた綺麗なクラーケンの顔には、不機嫌さがありありと伺える。

「ヒッドイ顔してるわよ。」
「放せ。」
「コレあげようか?」
「いらん!なんだその不気味な札は!?」
「勿論、薄暗いけどある意味真っ赤なサンタクロースから。」
「余計いらん!殺す!」

出た。
クラーケンの十八番「殺す」。
まったく、いちいち物騒な男だわ。

「はいはい。どうせ付いて来てなんかくれないんでしょう?」
「当たり前だ。」
「同じ苦しみを味わう仲間じゃない。少しは協力してくれてもいいじゃない。」
「断る!」
「…ハァ…。期待は微塵もしてなかったけどさ。」

眉間に深いシワを寄せて即答で返事された。
重い溜息。
なんで私は皆が楽しく過ごすクリスマスの朝から、こんなにもブルーにならなきゃいけないんだろう。

「じゃあ、もう用は無いわ…。メリークルシミマセ。クラーケン。」
「わざとらしく嫌な間違いをしていくな。…まぁ。頑張って来い。」
「ええ…。」
「………汚物子。」

ジトーっとした視線を送ってから私は再び血痕を追って歩き出した。
数歩歩いてから、呼び止められた。
やる気なく振り返ると…真剣な顔。
ちょっとその表情に自然と体は緊張して、クラーケンの言葉を待った。

「何か危険を感じたらとにかく『嫌いだ』とでも叫べ。そうすれば必ず奴は自滅する。その間に逃げろ。」
「…胸に刻みつけたよ。」

被害者同士の少し不思議な絆。
手助けしてとばっちりは受けたくないけど、やはりその恐怖は一番知っているから。
そして私たちはしっかりと目を合わせて…。
クラーケンから私への哀れみと同情を受け取り、私からクラーケンへの感謝と恨めしさを送りつける。
そして今度こそ、あいつに会うべく背中を丸めて足を動かした。
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