自由人夢

□ムーンライトな甘い夜
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忍さんから連絡がきたのは昨日だった。
私が学校から帰って部屋の窓を見ると、血文字で。

『明日の九時に駅で。 忍』

私は大興奮で、何を着ていけばいいのか三時間ぐらい悩んでしまった。
何より、忍さんが私のことを覚えていてくれたのが嬉しかった。
初めて会った時からもう一ヶ月…。
こちらから連絡するわけにもいかない(というか連絡先をしらない…うう。)
のでもどかしい日々を過ごしていたのだ。
しかもこれって…。

(デートのお誘い…だよね…///)

そんなわけで、もう私の頭はスパーク状態(ニュアンスの問題で)で忍さんに変なこと言っちゃたらどうしようとかそんなことばっかり考えていたのだ。

九時。というと結構中途半端な時間…。
それでも駅には人がたくさんいて車の音がうるさいぐらい。
私は前を通りすぎていく人を見た後、自分の体を見下ろした。
とりあえず淡い色で決めてみたけど…。

(忍さんってどんな服が好きなんだろう。)

よく考えてみると…私って忍さんの事ほとんどなにも知らないんだよね。
そう思うと、なんだかちょっぴり寂しい感じ…。

(でも、これから知っていけばいいんだよね!)

気合をいれてガッツポーズを決めてから、私は再び忍さんがくるのをまった。

「…………。」
私は左腕の時計に目をやった。
九時半…。

(忍さん…遅い。なにかあったのかなあ。)

事故にでもあってたらどうしよう。忍さんなら大丈夫そうだけど…もし怪我でもしてたら…。

(忍さん…早く来てよ。じゃないと私どんどん嫌なこと考えちゃうよ…。)

ほんとは忍さんは私をからかってたんじゃないか、とか。

その考えに、私はおもわず首をふった。

(だめだめ!忍さんに限って、そんなことするはずない!)

必死にそう思っても、頭の中では嫌な考えがグルグルまわって私はもうほとんど半泣き状態だった。
おもわず下を向くと、足元に人の影ができたのがわかって、私はおもわず顔をあげた。
しかし、それは忍さんではなかった。
「さっきから一人でどうしたの?ドタキャンされたとか?」
正直いって美型とはいえない顔のその男は、私の顔をのぞきこむと明るい声でいった。
「ね。そうでしょ?一人でしょ?いいお店知ってんだ。行かない?」

(もしかして…、これってナンパ?)

地元で、まさか自分がそんな目にあうとは思わなかったので呆然としている私に、男はさっさと話しを勧めてくる。
「すぐそこだからさ。いこ!」
「え!?あ…あの!」
いきなり腕をつかまれて私は我に帰った。
「困ります!私、人を待ってるんです!」
「もうこないって、わかってんだろ?」
「来ます!離してください!」
暴れだした私に男は舌うちをすると「おとなしくしろよ!」と怒鳴り私の腕を思いきり引っ張った。
「いたっ…!」
私が痛さに顔をしかめるのと同時に、私の腕をつかんでいた手が離れ鈍い音が響いた。
良く見ると、男はあお向けに倒れていて情けなく唸っていた。
「汚物子…大丈夫?」
聞きなれた声が耳元で響き、わたしはパッと顔をあげた。
「ごめんね。…遅くなって。」
「…忍さん…!」
待ち望んでいたその人の姿に、私は目を見開いた。
忍さんは、淡いコートに黒い手袋をしていて、なんだかとってもあったかそう。
忍さんは私の肩に手をまわし(この時思わず顔を赤くしてしまった)ぐいっと自分の体に引き寄せた。
「ホントはずっと前から来てたんだけど。」
「え?!どこにいたんですか?」
「…あそこ。」
忍さんはそういって駅とビルの間のすき間を指差した。
「あそこで…ずっと見てた。」
「え…。ど、どうしてですか?私、てっきり事故にでもあったのかと…。」
私は顔を赤くして下をむいた。
なんか、すごく恥ずかしい。
必死で心配してた私を、忍さんはずっと見ていたなんて。
忍さんに怒りとか、そういうのを感じてるわけじゃないけど…。

(これじゃまるで、私が忍さんにメロメロみたいで…)

いや…実際そうなんだけど(///)
俯いて黙り込んでしまった私の顔をのぞきこんで、忍さんは言った。
「……心配してくれたの?」
相変わらずのその美声に、私の膝はガクガクになりそう。
「あたりまえじゃないですか…。」
顔を真っ赤にさせて呟く私にを、忍さんは少し笑うと頭を優しく撫でてくれた。

(うわ…、気絶しそう…。)

口元を両手で押さえながら私が身悶えしていると、さきほど忍さんに殴られて(もしかしたら別の方法かもしれないけど見てなかったのでわからない。)気絶していた男が頭を押さえながら上半身を起こしていた。
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