自由人夢

□隅に薄い黒いの
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拝啓 お父さん、お母さん、リュウ、白龍さん、タッちゃん。
もう今年も残り少なくとても寒い季節となりましたが、きっと誰一人風邪なんかひいちゃいないでしょうね。
先日はなんとも有り得ない事態に取り乱し、危うく豚箱入りを果たしそうになりましたが今は穏やかな日々を過ごしています。
忍(あと乱世さんとリキッドさん)はあのまま子供のままですがね。
案の定ご近所の視線が痛かったりしますがね。
でも、別段大きな問題もなく平和です。

「ごめん、忍。今日私残業で遅くなるから先ご飯食べて寝」

血飛沫が飛ぶ朝ですが、ええ、平穏ですとも。



**隅に薄い黒いの**



「今日は…クリスマス・イヴだよ…?」
「うん、そうね。それなのになんで朝っぱらから手首切るのよ、アンタは。」
「だって汚物子が残業だって…。」
「仕事なんだからしょうがないでしょう。」
「汚物子は一緒に過ごせなくて寂しいとか…思わないの?」
「仕事なんだからしょうがないでしょう。」
「……。」
「手当てしたそばから切ろうとするな!」

小さな掌に握られた凶器を没収するとなんとも恨めしそうな目を向けられた。
可愛いんだけどねぇ…コレが玩具なら、純粋に可愛いんだけどねぇ…。
膝に乗る幼い美少年…忍の頭を優しく撫でた。

「明日は早く帰るから、ご馳走作って待っててよ?」
「……。」

うーん…どうにも機嫌直らないなぁ…。
って、時間ヤバイ!
ぷにぷにの二つのほっぺをぐにっ、とつまみ無理やりにでも目を合わせると、やっぱり不満そう。
…というか、寂しそう。

「…もう行くけど、手首切るんじゃないよ。」
「……。」
「…行って来ます。」

まったく、子供かこいつは。
…まぁ子供だけどさ。外見は。
だけどなんでこんなに今日は聞き分けがないんだろう。
拗ねてみせる事や手首切るのはしょっちゅうあるけど、ここまでしつこく無言突き通したりはしない。
クリスマス・イヴ…確かに特別な日ではあるけどさ…。
溜息をつきながらも遅刻するわけにはいかない。気は重いけど玄関へ向かい靴を履く。

「じゃあ行って来…。」
「汚物子。」
「…なによ。」

一瞬声の主が何処にいるのか分からなかった。
よく見ていると、部屋の隅になんか薄くて暗い物体が。
おーい…なんかアンタの友達と同化してるわよ。

「汚物子が仕事だって、しょうがないって…分かってる。…でも、…。」
「…なに。」
「…思って欲しかったな。言って欲しかったなって。」
「主語がないわよ。いったいな」
「遅刻するよ、汚物子。」

なんとも遠回しな言い方にちょっと私は苛立ち始めてた。
ちゃんと追及しようと思ったものの…確かにこれはかなりマズイ時間。
あー…もう、なんなのよっ!!
言葉にしなかったけど、ドアに代弁してもらった。
この家だけ地震が起きたかのようなその乱暴な振動で。
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