その他あーみん夢

□飴細工の猛獣
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「やっだー!凶門が人間の子供と玉遊びして遊んでるー!信じらんないー!その格好だっさー……っとと。」
「…お…おい凶門…。」

私の後ろでガシャンと音を立てて硬い網に木の棒が絡まった。
人間のトロイ目じゃ木の棒が突如瞬間移動したみたいに見えただろうから、皆呆気に取られている。
凶門が私にぶん投げた、と分かっているのは投げた本人と私、あと凶門の近くにいたツンツン頭の子供だけ。
となると…あれが、問題の奴ね。
ふむふむと私が納得している間も凶門からの熱烈視線は注がれ続いている。

「貴様…ッ!何故此処にいる!?何をしに来た!?」
「愛する凶門を追いかけて来たに決まってるじゃない。なのになあに、あの歓迎の仕方は?」
「帰れ!!」
「やだ!!」

私を睨みつける目に更なる苛立ちが上乗せる。
周りの子供もなんだなんだとヒソヒソと呟き合い、視線が鬱陶しい。
何よ“修羅場”って。こんな生温い修羅があるかっての。

「凶門、もしかしてこいつも…?」
「…そうだ。」
「……………本当に女?」
「おいこらそこのガキ!どういう意味よ!!」
「いででで!!!悪い!悪かったって!紛らわしいのがいるからつい…。」

ごめん、ごめん、と繰り返す姿から一応の誠意は感じられたから、パッと右手で引っ張り上げていた耳を離し開放してやった。
ほんと、失礼なガキ。
本当に気に食わないけど…でも、これ以上の手出しはしないでおいてやるわよ。
一応は恩があるからね…。

「…なーに、凶門?2人っきりで話せないか、とか気の利いた事も言えないの?それともこのまま大公開でお話しする?もしくは、愛しの汚物子少しの間お待ち頂けないでしょうかってお願いするなら待っててあげるわよ?」
「お前たちは練習を続けていろ!すぐ戻る!…来い。」
「凶門ったら、ほんとツレない。」

ぐい、と乱暴に腕を掴まれて強制連行。
どうせなら手を引っ張ってくれたらいいのに。
でも馬鹿だなぁ、それでもちょっと喜んでる自分って。
ぐいぐい遠慮なしに引っ張られ、この敷地内の隅っこの方へ。
立ち止まって振り向いたら相変わらずの怖い顔。

「汚物子…今がどういう状況かわかってるのか!?」
「馬鹿にしないでよ、知ってるわよ!わざわざ天狗の所まで行って根掘り葉掘り聞き出して来たっての!」
「だったら…!」
「だからでしょうが馬鹿!!…うっううう…。」

即座に手形が残ったんじゃないかって位強く掴まれた手が離れ、苛立ちに満ちた表情は困惑に変わる。
視界はユラユラ泳いでいるけど、でも、まだ泣いてない。泣かない!だって泣いたらまた…。

「相変わらず感情の起伏が激しいな…泣き虫女。」
「な、泣き虫って言うな!泣いてない…っ!まだ、泣いてないもん…!凶門の、馬鹿…!」
「馬鹿は貴様だ。泣き止んだらさっさと山へ帰れ。」
「やだ!!泣いてないし、帰らない!!」

いつもお決まりのように吐かれる大きな溜息。
そして、お決まりのように撫でられる私の頭。
この馬鹿、くそ、そしたらまたいつもと同じで泣いちゃうじゃんか。
ぎゅうっとしがみ付くと、いつもとは違う人間の衣服が私の涙を吸い取っていった。

「どんだけ心配したと思ってんのよ!凶門がいなくて寂しくて不安で…しかも、指名手配犯と一緒って…!」
「……。」
「でも、奴が…あのガキが凶門助けたって…でも不動明王だって…感謝すればいいのか殺せばいいのか、わかんなくって…!」
「……。」
「凶門の事だから、私を巻き込みたくないとかそんなんだろうけど、でも…!私は凶門から離れるのが一番辛いし、まして、危険な目にあってるんなら、私は、凶門の側に最期までいたい…!私が1人じゃ生きられないの、知ってんでしょ!だから…置いてかないでよぉ!!」

私は生まれたての赤ちゃんか。
そしてお前は私のお母さんか。
飽きもせず泣き続ける私を、ただただ黙って撫で続ける凶門。
この状態が一生続く妖術とかないもんかな。

「…まるで駄々を捏ねる餓鬼だな。」
「もーいいわよ、それでも。だったら餓鬼の面倒見ろ。育児放棄すんな。いいから側にいさせろ。馬鹿。馬鹿凶門。」
「こんな口の悪い面倒な奴に育てた覚えはない。」
「いーや、私がこんな甘えたになったのも全部凶門の教育の賜物ですよ。いやはやお見事。」
「減らず口ばかり叩きおって…。」
「いひゃいはなへ。」
「もう泣き止んだだろう、早く帰れ。」
「やは、はへひゃはひ。」

右頬を抓られながらも腕に更に力を込めてしがみ付く。
ぐ、と少し苦しそうな声が聞こえたけど無視。
暫くすると頬を寄せた胸が大きく動き、また大きな溜息が零れ頬からも手が離れた。
代わりに両腕が背に回される。

「……分かった。俺の負けだ。」
「へ…?それは…側にいてイイって事?わーい!わーい!」
「ただし、いつ何時敵が襲ってくるか分からんから常に気を引き締め」
「わーい!やったーやったー!」
「聞け俺の話を!!」
「うん?だって要は凶門の側にいればいいんでしょ?そしたら何が来たって凶門が私を守ってくれるし、私は凶門を守れるもん。」

ね?と笑いかけると、凶門が顔を背けてこめかみを押さえだした。
もーやだなぁ、可愛いなぁ凶門ったら!
サラサラの髪の毛に遮られたその表情に私の顔がにやけてしまう。

「…そういう、ことだ。」
「凶門かわいー!愛してるー!!」

凶門の照れた顔は間違いなく世界で一番可愛い!
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