その他あーみん夢

□夢見心地
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「…だなぁ。」

ふにゃんとしたまるで素敵な夢の中にでもいるかのような小さな声。
何を言ったのかは分からないが耳に入った甘い声につられて新作ゲームの背景のデザイン案を描いていた手を止め、腕を少し上げて左の腰辺りを覗き見る。
暫く前と変わらず自分の腰に腕を回し、あぐらをかく足に頭を乗せ寝転ぶ汚物子は腕と腰に顔を埋めていて表情は分からない。
いつの間にかこうして仕事用の机に座らず、彼女に引っ付かれながら絵を描く事にも慣れていた。
最初の頃はなんとなく落ち着かなくて押し問答を繰り広げたものだ。
勿論最終的に彼女の可愛い我儘に勝てる訳もなく、違和感とむず痒さの中いつもより遅いペースで仕事を進めるようになり今ではこれが日常と化している。
おかげでかれこれ一時間以上仕事に集中していて全く彼女を構ってはいなかった。

「どうしたの?」

本当に寝言だったかもしれないので小声で尋ね、ふわふわの髪の毛をそっと撫でる。
途端にピクリと反応があり、どうやら起きていたようで汚物子の大きな目が僕を見上げた。
何故か黙ったまま見つめられ、少し首を傾げてなに?ともう一度聞いてみる。

「幸せだなぁ、って。」

さっきと同じような甘くて蕩けるような声。
そしてその声と同じようにへにゃ、とした笑顔。
パチクリと瞬きをしてその顔を凝視していたらどうやら恥ずかしくなってきたらしく、誤魔化すような笑いを漏らしてまた顔を隠してしまった。
少しだけ、腰への圧迫が増す。
相変わらず同じ場所を見つめ続け、頭の中ではさっきの声と笑顔が繰り返されている。
ジワリジワリと顔が熱を帯びていく。
ペンを持っていた手を口元に当てると見事に口角が上がり、いつもより頬が熱い気がする。
心臓の音がうるさく感じ、身体にくっついてる彼女にはその事はバレてしまっているんじゃないだろうか。

「…ありがとう。」

ああ、情けないな。
緩みきった顔を抑えながらこんな言葉しか出てこない自分が情けなくて仕方がなかった。
ニヤけと苦笑いが混じってきっと汚物子が見たら爆笑ものだろう。

「ナオト大好きー…!」

足をバタつかせながら更に腕に力を込め、腹を締め付けられて少し苦しい。
何故だかあんなありきたりな礼の言葉しか出なかったのに、汚物子は凄く嬉しいそうで暴れる足は犬の尻尾のようだ。
落ち着こうとしていた体がまた急激に熱を帯び、顔が見る見る崩れていく。
急激な熱に眩暈さえ覚える。

「オレも…大好き、だよ。」

決して彼女がこちらを見ないように、やや強く頭を撫で付ける。
テーブルに肘を突いて大きく広げた手に顔を押し付けた。
蕩けてしまいそうな程幸せで、そんな事を考える自分にまた恥ずかしくなった。
ゲームの世界ならきっとすぐに汚物子を抱きしめてキス…なんて展開になっていただろうに。
でも残念ながら恋愛ゲームは専門外だし、こんなだらしない顔は絶対に誰にも見せられない。
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