その他あーみん夢

□綺麗なモノ
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「綺麗ですねぇ…。」
「ええ。それなりに。」
「そ、それなりに…ですか…。」

アッサリと微妙な肯定の仕方をされて、ちょっと戸惑う。
その間にも、真っ黒な夜空には綺麗な華が咲き乱れている。
私にとってこの花火を見る事は、年に一度の楽しみ。
毎年毎年、一人この場所で花火を眺めていた。
…だけど…今年は今までとは、大きく違う。
なんて言ったって、今現在私の隣には…我らが御大将の九尾ノ狐・玉藻様がおられるのだから。

「…あの、お楽しみ頂けませんでしたでしょうか…。」
「いえ、別にそんな事はありません。たまに見る分には楽しめます。」

淡々とした口調で、夜空を仰ぎながらそうおっしゃる玉藻様。
その一言で私は安心した。
玉藻様は人の機嫌を取るために嘘なんて、私なんかにするわけないもの。
それにしても…我ながら、本当によく頑張ったわ!!
だって、私は玉藻様の身の回りのお世話をさせて頂いている、ただの雑魚妖怪。
そんな私が、玉藻様を花火を一緒に見ようと誘ったんだから。
丁度その場にいた鎌鼬達も、大狐達も…驚いて固まってたしね。
だけど当の玉藻様はすぐに受けてくれた。
やっぱ、駄目でもともと、やってみるもんだね。

「汚物子は…。」
「は、はい!!」
「なぜ、このような物をわざわざ毎年見ているんですか。」
「え…?えと…それは、やはり綺麗だからです。真っ暗な空に、あんなにも鮮やかに色々な形をした花が咲いて…。それに、あの音も好きです。」
「綺麗…。」
「玉藻様?」
「私の方が綺麗だと思いますけどね。」

…真顔でそんな事を言った人を、私は初めて見ました。
だけど、玉藻様のそれ以上に凄い所は、それを否定できないところ。
空を仰ぐその横顔が、花火の光でしっかりと私の目に映る。
それは本当に本当に……綺麗。
思わずうっとりと見惚れてしまっていたら、不意に玉藻様がこちらを向いて、目が合ってしまった。
ドキリと心臓が動いて、顔が赤くなっていく。
思わず不自然なまでに視線を逸らして、花火へと目を向けた。

「あなたもそう思いませんか?」
「え…あの、何がでしょうか。」
「私とあれでは、私の方が断然綺麗だ、ということです。」

断然とまで言い切りましたよ、玉藻様。

「それは、はい!勿論、玉藻様の方がお綺麗だと思います。」
「本当ですか。あれだと答えたところで殺したりしませんから、正直に言ってください。」
「いえ、本当です!玉藻様よりも綺麗なものはないと思います!!」

さりげなく脅迫にも似ている事を言われた気がするけど…勿論、今言ったことは私の本心も本心。
その綺麗な姿に心を奪われ、冷酷非道だけど…本当はとても仲間想いな…そんな玉藻様に…私は恋したのだから。
一人そんな事を考えていたら、なんだか恥ずかしくなってきて、再び花火へと目を向けた。
すると、横で小さく笑う声がした。

「では、もうあれを見る必要はありませんね。」
「は………?」

玉藻様の言葉の意味が分からず、聞き返そうとしたけど…止まってしまった。
私が玉藻様の方に顔を向けると、私の両頬が何かに包まれた。
それによって、私の顔は動けなくなって…その目の前には、玉藻様のお顔が…!!
その顔との距離の近さに、私は絶句。

「あ…あ…あの、た、玉藻様。これは一体…。」

声を絞り出して、なんとか聞くことができた。
だけど、玉藻様は形の良いその口の端を上げて笑って…。

「美しさに魅せられて毎年花火を見ているなら、花火以上に美しい私を見ていれば、別にあんなもの見なくても良いでしょう。」
「え!?で、ですが…!!」
「私も花火などよりも、汚物子を見ていた方が面白いですしね。」

うっ…。
玉藻様は確信犯でおっしゃったのだろうか…。
玉藻様が面白いというのであれば、私は動けないじゃないですか…。
大人しくなった私を見て、玉藻様はまた笑った。
そして…またアッサリとこんな事をおっしゃられた。

「汚物子は私だけに魅せられていらばいいのです。……私が汚物子にだけに魅せられているように。」

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