封神夢

□免罪寝顔
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「………ねえ?」
「……。」
「お〜い?」
「……。」
「…申公豹〜?」
「……………ああ…はい。なんですか、汚物子?」



【免罪寝顔】



「…汚物子?」
「さっきからどうしたの。」
「何がです?」

今日も今日とて、一人でダラダラしていた汚物子の元へやって来た申公豹。
…しかし、その様子は明らかにおかしかった。
いつもなら汚物子が声をかければそれは嬉しそうに即効で返事をする申公豹が、何度も呼びかけた事自体に気付いていない。
それは申公豹の心底不思議そうな表情を見ればすぐ分かる。

「ずっと呼んでも返事しなかったから。」
「まさか。この私が汚物子の呼びかけに気付かないはずがありません。」
「いや、本当だから。何度も声かけても、すっごいボー…として四次元空間を見てたよ。」
「…そうでしたか。それはすみませんでした。」
「別にいいけど…。」

そこで会話が途切れてしまった。
チラリと申公豹を見れば……やはり視線はどこか遠くに飛んでいる。
口ではああ言っていても、ちょっと寂しかったりする汚物子。

「申公豹。」
「……。」

やはり返事はない。
寂しさと少しの苛立ちから、汚物子は申公豹の髪へと手を伸ばした。
そして、丁度先っぽの丸まった部分を掴み……。

「し・ん・こ・う・ひょ・う!!!」
「ッ!!」

思いっきり引っ張った。
さすがの最強の道士である申公豹も、これは普通に痛い。
驚きと痛さから、声にならない声をあげて苦痛に表情を歪めていた。
汚物子が手を離せば、申公豹の綺麗な白い髪の大半がその肩にかかった。
…そして、一部は草の上へと落ちた。

「な…何をするのですか、いきなり。」
「髪の毛引っ張った。」
「…確かにそうですね。では質問を変えます。なぜ、引っ張ったんですか。」
「また私の事シカトしたから。」
「……え?」
「やっぱ気付いてないしね。」

それまで静かな怒りを露にしていたが、汚物子の一言でそれは消えてしまう。
そっぽ向いてしまった彼女を見て自分の失態を悔やんだ。
しかし、ふと…口の端を上げると手早く髪を整え、汚物子の体を腕に収めた。

「なっ!?」
「あなたの声に気付かないで、すみませんでした。」
「わかったから離せ変態道化師!!」
「あともう一つ。」
「なに!?いいからさっさと離してよ!?」
「寂しい思いをさせて、すみませんでした。」

クス、と笑いながらそう言うと珍しく素直に身を引いた。
汚物子は…抱きしめられた時点で赤面していた顔は、図星をつかれた事で更に赤くなる。
勿論汚物子が黙っているはずがない。

「だ、誰が寂しいなんて…!」

そう叫んだ汚物子だったが、その後の言葉は続かなかった。
彼女の視線の先にいるのは当たり前だが申公豹。
しかし、その申公豹の黒い大きな瞳はやや閉じられ、カク…カク…と首が小さく上下していた。
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