封神夢

□素直な気持ち届けテメーに
1ページ/4ページ

「ねぇ…センちゃん。どーいう神経してたらセンちゃん程強烈じゃなくていいから、素直に好きとかそういうの言えるの?」
「相談してんの、喧嘩売ってるの、どっちなのアンタは!」
「勿論相談だけど?」

蝉玉の手にある五光石が自分へと向けられたのを見て、顔をガードしながらも平然とそう言った。
汚物子としては思ったままを口にしただけなのだろうが完璧に嫌味に聞こえる。
しかしまだ睨み続ける蝉玉に向ける不思議そうな表情を見ると、やはり本人としては嫌味ではなかったらしい。
なんとも紛らわしいこの友人に対してわざとらしく大きく溜息をついてから、手元のお茶を一口飲みこんだ。

「それで…どうやったら素直になれるかって?」
「そう。前々からセンちゃんと土公孫さんの2人を見てて不思議で不思議でしょうがなかったのよ。なんであんな風に言えるの?更には行動でもを表せるの?」
「なんでって、思ったまま言ったり動いたりすればいいだけじゃない。」
「思ったままやってたら、素直じゃないのよ私は!」

今度は汚物子が溜息をつく番だった。

「だけど、私の方がむしろ不思議よ。だって意中の相手の申公豹からは毎日毎日あーんなに熱烈アタックかまされ」
「だっ…誰が意中の相手だーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

突如絶叫に近い汚物子の声が響き渡った。
勢い良く叩かれたテーブルの上に乗っていた二つの湯飲みが揺れ、お茶が少し零れる。
あまりに突然で、大きな声だったので蝉玉は椅子から見事に転げ落ちた。
その蝉玉を見てハッとしたように我に返える。

「ご、ごめんセンちゃん!…大丈夫?」
「驚きのあまり痛みも感じなかったわよ…。」
「それなら良かった!」
「良く無いわよ!…まったくぅ…。」

服についた埃を払いつつギロリと汚物子を睨む。
それを誤魔化すようにあはは、と乾いた笑いを浮かべた。

「と、とにかく!私はあんなの好きでもなんでもないから!どこの世界にあんなストーカーを好きになる奴なんか!」
「アンタ相談に来ておいて全然素直になる気ないじゃない!?」
「誰も、申公豹が好きなんて一言も言ってないじゃない…。」
「そーんな事言ってぇ〜。知ってるんだからねぇ、私。」
「な…なによ。」

ニタリと笑うその顔に嫌な予感が過ぎる。
その微かに動揺する様子が更に蝉玉を楽しませてしまったらしく、更にその笑みは濃くなった。
暫く蝉玉の怪しい笑い声だけがこの部屋を包んだ。

「いっつも申公豹がいなくなった後、一人へこんでるでしょ〜。」
「な、なんで私がへこまなきゃいけないのよ!有り得ない!!絶対ない!!」
「『はぁ…なんであーゆー事しか言えないんだろう』…って、誰が言ってたっけ?」
「それは!…それは、あいつがなんであんな変態的な発言しかできないのかって事で…ッ!!へ、へこんでたんじゃなくて、申公豹の相手してて疲れたの!それだけなの!!」

あからさまに動揺している。
もうこれは否定していてもほどんど肯定しているように見えてしまう。
本人にはそれが分からないから見ている側としては可笑しくて仕方がない。
爆笑しそうになるのを堪えている蝉玉に汚物子の羞恥心と怒りが凄まじい勢いで上昇していく。
しかし、それはグッと押さえつけられて深呼吸と共に吐き出された。

「センちゃん。あんまり余計な事は言いやがらないで、私の話を聞いてくれやおい。」
「あ…う、うん。ごめん。」

…どうやら押さえつけられただけで、まだ充分に残っているらしい。
低く唸るようなその声に蝉玉も背筋が冷たくなった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ