封神夢

□白く甘い恋人たち
1ページ/6ページ

「さぁ、受け取って下さい。」

汚物子は一瞬事態を飲み込めなかった…いや、脳が拒絶していた。
本日3月14日ホワイトデー。
そろそろ大学へ行こうかと身支度を整えているとチャイムの音。
嫌な予感がしながらもドアを開けると…………そこには自らの頭に真っ赤なリボンをつけた…不覚にも惚れた男がいた。



*白く甘い恋人たち*



「…あー…なんていうかね、申公豹は一度死んでみた方がいいんじゃない?」
「まあ、そう照れずに。」
「照れてるように見えるんだ?あまりにドン引きしすぎて普通に困ってる私を見て。」

この時頭、胃、目が同時に悲鳴をあげたという。
汚物子が呆然としていたのを良い事にリビングまで入り、悠々と椅子に座っている申公豹。
それを遅れてリビングに来た汚物子は申公豹の向かいに座って冷たい視線を送る。

「何が困るのです。貴女がバレンタインデーに愛のこもったチョコをくれたそのお返しをしているだけではないですか。」
「あぁ、確かにあげたね義理チョコ。」
「…と言いつつ、愛のこもった手作りをくましたね。」
「だ、だから!あれは皆に同じのあげてるんだって!愛のこもったを強調するな!」
「おやおや。私が他のチョコとの違いに気づいていないとでも?」
「そ、それはよく気付いたわね、私が申公豹のだけには怨念こめてたなんて。」
「そうではな」
「他に違いなんてあるもんかあってたまるかあったらただの偶然!」

そう叫び顔を赤くするのは怒りよりも照れのせい。
申公豹のチョコは他のチョコの何倍の精神と時間を費やしたか…。
しかしそれを正直に言えるようならばとっくの昔に汚物子はウェディングドレスを着ているだろう。

「って言うかね。本気で気色悪いから。申公言…アンタそんなリボンなんか頭につけて私を受け取れって…恥ずかしいとか思わない訳?」
「何がです?」
「…ああ、そうだよね、これで恥じてるなら普段からあんな格好しないわね。」
「…それはどういう意味ですか?」
「あ!い、いや…とにかく!もう帰ってよ本気でいらないから」

ついついNGワードを口走り慌ててその話をずらす。
彼のセンスの無さを批判すれば愛か死かがもれなく付いてくる(99%は死)。
さすがの汚物子も申公豹の本気の怒りは怖いので、無理にでも話題を戻した。
すると、申公豹は小さく溜め息をもらし、そのリボンに似合わず真剣な表情で汚物子を見つめた。

「貴女の性格は重々分かっています。そして、本当は私の事を愛している事も。」
「だっ…!だから何を勝手に」
「ですが。…私とて、そこまで拒絶されると…不安になってしまいます。」

申公豹のこんなにも弱気な発言と表情を見た者が世界に何人いるか。
いつもの迷惑な程強気に余裕な申公豹からは想像できない光景だった。
ズキリと胸が痛むのを感じた。

「私の事…本当に嫌いですか?」
「き…嫌いじゃ…その、色々ムカつくけど、嫌いって訳じゃ、…その…。」
「でしたら受け取って下さい。…ただ、貰うと言ってくれれば充分ですから…。」

逸らす事の出来ないその視線。
心の中で素直な気持ちとプライドの二大勢力が戦い蠢く。
いつもなら軽くプライドが素直な気持ちを捻じ伏せるが…申公豹の言葉と視線がその力関係を揺るがす。
とても長く、長く思える沈黙が続く。
一瞬汚物子の唇が微かに動くように思えたが、視線が伏せられ顔を俯かせた。
申公豹の目に赤く染まる汚物子の耳が見えた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ