その他夢
□分岐点
1ページ/2ページ
『ね、汚物子ちゃん。私ちょっと出かけてくるね。』
『…?はい、いってらっしゃいませ。お気をつけて。』
いつも出掛けるときにわざわざ声などかけないのに。
『うん…、じゃあね。』
『?』
いつも明るく笑っている方なのに、表情が固かったのも不思議だった。
眉を下げて、今考えたら泣きそうにも見える顔。
…そのときに呼び止めたら、姉さまは行かないでくれました…?
-----分岐点-----
「っは、はぁ…ッ。」
そんなに広くない家な筈なのに。
「…っふ、は。」
先生の部屋までの渡り廊下がこんなに遠いなんて思ったことなかった。
「…っしつれ、しますっ!」
「…汚物子。」
勢いよく襖を開け、桂先生の部屋に返事も聞かずに入り込む。
「桂先生っ、姉さ…まがッ!」
「……。」
あぁ、汗が目に入ったのだろうか。
目の前がぼやける。
『特攻隊長が寝返ったそうだ。』
『幕府の犬に仕えに行ったらしい』
「姉さまが…姉さまがァァッ!!」
体に力が入らなくなり、その場にへたりこんでしまった。
ぼやけて見える桂先生は全身をこちらに向ける。
…名前は、真選組に行ったのだよ。」
「ーーーっ!!
目が痛い。
喉が苦しい。
息が出来ない。
…あぁ、私は泣きそうなんだ。
「汚物子。来なさい?」
「…っ。」
桂先生が微笑んで両腕を差し伸べて下さるものだから、膝立ちでずりずりと桂先生に近づいた。
「ほら。」
「!!」
ぐっと桂先生の膝の上に持ち上げられて座らされて、頭を撫でられる。
「汚物子は私が好きだね?」
「ふぇ?!」
「…嫌い?」
「い、いえっ!大好きで…す…////」
桂先生を嫌うなど有り得ないと否定のために上を向くと、にこやかに笑う桂先生。
その端正なお顔がとても近くて、一気に羞恥心が増し語尾が小さくなった。
「名前もな。」
びく、と体が震えた。
姉さまは何故、私達を捨てて行ってしまったのか。
「ようやっと、愛しいものができたらしいぞ。」
「…ぇ?」
くすくす笑う桂先生。
何が可笑しいのか分からない。
「真選組局長、近藤勲に惚れたそうだ。」
「え、ええぇぇぇ?!」
目を見開くと溜まっていた涙が零れた。
それを桂先生は優しく拭ってくれる。
「…汚物子は、名前と敵にはなりたくないか?」
「はい、はいっ!」
私はどうしたら良いですか。
姉さまは敵に惚れて敵になってしまった。
「姉さまも大事ですけど…っ」
我慢出来ない涙がぱたぱたと落ちる。
また桂先生がぼやけてしまう。
「桂先生と敵になるなんて…!!」
桂先生の首に腕を回して体全体で抱きつく。
肩に顔を押し当てたため涙が桂先生の着物に吸い取られる。
「名前はな、来たいなら真選組に来いと言っていたよ。」
「っく、や、ですっ!桂さまと離れたく無いっ!!」
体を起こしてどんどん溢れる涙を袖で拭う。
桂さまの整った顔が笑っているのが見てとれた。
「ああ。私も離れて欲しくなんか無いよ。」
「…うぇ…っ!」
「やっとアイツも一緒にいたいと思える奴が出来たんだ。めでたいとは思わないか。」
「…っ、は、いっ!」
やっぱり桂さまは頭が良いと思う。
離れた事を嘆くより、離れた理由を喜ぶようにと言ってくれた。
「姉さまも、桂さまも…大好きですっ!」
「…ありがとう。」
ぽふぽふと背中を撫でられる。
泣いたせいでひくひく痙攣する体を落ち着かせるたに大きく息を吸って。
息を止めて、心の中でひっそり小さく。
姉さまに別れと祝福の言葉を送った。