自由人夢

□ルーンメイス
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男の手は止まったというよりも、進まないというか…。
まるで私の周りに見えない壁でもあるかのように、男の手はある一定の場所よりは、私に近寄れなかった。
驚きつつも、私は背後を見てみる。
やはり壁と私との距離はまだ少しある。
だけど…やはり、見えない何かが私の背中に当たっている。
その背中の当たる部分に沿って手を動かしてみると、私はどうやら見えない壁のような物は、私の周りで円を描いたような形になってるみたい。
…つまり、私は閉じ込められてる状態!?

「おいおい、これ、なんだぁ!?」
「私に聞かれても!!ちょっと…本当になんなのよぉ!!!」
「汚物子!」

私も男も驚いてプチパニックになってると、少し離れた場所から私の名前を呼ぶ声。
それは姿を確認しなくてもすぐ分かる。

「忍〜!!」

人混みから私に向かって来る黒い浴衣を着た、長身の美形な片目隠しの男。
それはまさしく、忍。

「やっと見つけた…。」
「それより忍!私、変な見えない壁だかなんだに閉じ込められちゃってて…もう、何がなんだかわからなくって!!」
「あぁ。…ちょっと待っててね、すぐ解くから。」
「…は?」

思わず間抜けな声を上げてしまった私を気にせず、あの幻杖・ルーンメイスを持ち出す忍。
そしてそれを地面に突き立てて、ブツブツと何か言うと…今まで触れていた何かが…消えてしまった。

「汚物子と逸れちゃって…忍、一生懸命探したけどなかなか見つからなかったから、汚物子に“呪縛陣”をかけたんだ。そうすれば、その力が発生したとこを探せばいいからね。」
「そ…そういう事だったの…。」

なんか…そう、だよね。
よくよく考えてみれば、こんな事できる奴なんてそうそういないんだから。
それにしても…ルーンメイス、侮りがたし。
防御としても、攻撃としてもつかえて…更には、こんな遣い方もあるなんて。
いろんな意味で凄いなぁ。
…でも、本当良かったぁ…忍に会えて。
私がホッとして、改めて忍に目を向けた時…忍の視線は違う方向へと向いていた。
私の前にいる…あの、ナンパ男。

「…誰、キミ。」
「あ…いや、その俺は……。」
「まさか…忍の汚物子に手を出そうだなんて…してなかったよね…。」
「まッ!!まさか、そんな……お、お邪魔しましたッ!!!」

悲鳴をあげるようにそう言うと、ものすごい速さで男は去っていった。
やっぱり、あんな変なことするような奴とは関わらない方がいいと判断したのね。
馬鹿だけど本能は衰えてなかったってとこ?

「…忍、ごめんね。勝手にうろちょろして…。」
「大丈夫。忍、気にしてないから。…それよりも、汚物子が見つかって良かったよ。」

そう言った途端、忍は私をその腕の中に閉じ込めた。
私は突然のことで目を白黒させてしまった。

「…本当に、よかった…。」

私を抱きしめる腕に、更に強い力が加わった。
…あ。
忍もしかして、ヒーローくん…天帝の時の事を思い出して…。

「忍、大丈夫だよ。私はちゃんとここにいるから。もう、どこにも行かないから。」
「…うん。ごめんね、忍…いきなりこんな事しちゃって。」
「ううん。私も、本当にごめんね。」

少し離れてから、お互いに笑い合う。
こういう時、凄く幸せな感じがしてくる。

「それじゃあ…もうちょっと、歩こうか…。」
「うん!」

そう言って、忍は私の前に手を差し出した。

「逸れないように。」

勿論私もその手をとった。
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