封神夢

□免罪寝顔
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「(…………………………………………………可愛い…………………。)」

さっきまでの怒りはどこへやら。
不覚にも素直にそう思ってしまい、あまつ頬が緩んでしまった。
幸いにも申公豹はそれに気付かなかったが。

「…眠いの?」
「…ええ。最近、寝不足で…。」

先程の失態もあり、なるべく冷静を装って冷たく言ったが……汚物子はアッサリ敗北した。
寝ないように目を擦るその様子に微笑ましささえ感じてしまい、また顔がニヤけてしまっていた。
八つ当たりに何か言ってやろうと思ったが、珍しい表情にその気すら失せる。

「寝なよ。そんな眠いなら。」
「しかし…。」
「起きてたってそんなんじゃ寝てても同じだって。」
「……。」
「…あのねぇ。いっくら相手がアンタでも、寝てる人を置いて帰ったりしないわよ。」

少し怒ったようにそう言った汚物子に、申公豹から溜息が漏れる。
彼女と一緒にいる時間を睡眠などで潰したくない。
そういう思いで眠るのを渋っていたと言うのに……。
その溜息の理由も分からない様子の汚物子に、もう一度、溜息をついた。
…が。さっきまで溜息をついていた口の端がニィと上がり、そして……。

「…ちょっと。」
「なんですか?」
「寝る事を勧めたのは他でもない私だけどさ。だけど…………誰が、人の膝を枕にしていいって言った!?」
「ん〜…もう少し、静かにしてくれませんか。眠れません。」
「この野郎…。」

ちゃっかり三角帽子も取り、汚物子の膝に頭を乗せて眠る体制に入った。
しかも本人の抗議に全く聞く耳を持とうとすらしない。
グチグチと文句を言いつつも、寝ろと言った手前このドタマを蹴り倒せず結局この体勢に留まった。

「…そー言えばさ。」
「……はい?」
「なんでそんな寝不足になったの?」
「それは、ただ…。」
「ただ?」

本格的に眠りに入る所だったのが声で聞いて取れた。
ちょっと悪いな、と思ったがそのまま質問を続ける。
するとやはり眠そうな声が返ってきた。

「24時間、ずっとあなたを見守ってると言ったでしょう。」
「……………………………………………………………………………………………………え?」

汚物子が唖然としている間に、膝からは静かな寝息が聞こえてきた。

「(こいつ…本気で今の今まで24時間体制でストーキングしてたのか!?そりゃあ寝不足にもなるよ!!)」

驚くのも無理はない。
初めて申公豹と出会ってから、1ヶ月は経過しているのだから。
しかし、少々突っ込む点がズレているように思える。
寝不足うんぬんの前に、1ヶ月以上ストーカー行為をし、その事を平然と本人に言っている事の方が重要だと思える。
更にはその期間、本当に一睡もしていないというのは最強の道士と言う肩書きよりもある意味では凄い。
いくら本心惚れてしまっているとは言え、気持ちのいい事実ではない。
なんとも複雑な心境の汚物子。
とりあえず、今この場で叩き起こして二度とそんな事をしないように怒鳴ってやろうか。

「………………卑怯だ。」

そう呟くと、右手で口元を押さえた。
眠そうな表情に負け、寝顔には完敗したらしい。

「しかも美白だし。…ムカツク。」

悔し紛れにその頬を抓ってみる。
低く唸るその姿すらも可愛らしく映ってしまい、こんな些細な反抗すら叶わなかった。

「肌スベスベだし…髪もキレーだし…サラサラだし…。そういえば、帽子取った申公豹なんてレアだ…。」

さっき思いっきり引っ張った髪の毛にも手を伸ばす。
あの時は気付かなかったその髪の綺麗さ。
触り心地の良いその髪の毛を撫でながら、申公豹の顔を眺め……………。

「……………………マズイ…。思った以上に、申公豹の事が好きかも…。」

綺麗に切りそろえられた白銀の前髪に、そっと口付けを落としたのだった。
微妙な心境で赤面し、汚物子も浅い眠りについたのだった。
そして、眠りについて間もなく………………唇に柔らかい物が触れる事には気付く事はなかった。
その代わりに、起きた時にこれ以上ないほど上機嫌な申公豹に抱きしめられている事には、数時間後に否応なしに気付かされるが。
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