□どらいばーず・はい
2ページ/2ページ

「あ。」
「へ…?うぉっ!!?」
沖田の呟きと共に急ブレーキングで止まる車体、思い切り反動に前に振られて土方はシートベルトに繋ぎとめられる。
「なんだっ!?」
「いや、ガキが。」
車の前にぺたりと座り込んだ子供を指差して沖田が事もなげに言うのに土方背筋に戦慄の走るのを覚えた。
シートベルトとロックを乱暴に外して、車外へと下りた土方はへたり込んだ子供を助け起こすと怪我がないのを確認する。
それについで運転席から降りた沖田が側によると大丈夫かなどと土方に声をかけられる子供はかくかくと頷いてから走り去ってしまった。

それが見えなくなるまで見送って踵を返した土方はそのまま運転席側の扉へと手をかける。
「土方さん?」
「……もーお前には任せられん、俺が運転する。帰るぞ」
「えー?!これから山奥まで行ってカーセックスって思ってたやしたのに!」
「……お前には任せられないから、帰るから、俺が運転するからっ」


沖田のその言葉はさらに土方の決心を固めさせ、土方は運転席にその身を滑り込ませた。
沖田はそれに憮然としながらも助手席のドアを開けてシートへと腰を下ろした。

がこっとサイドを下ろした土方の手がギアへとかかり、左足がクラッチを踏む。
アクセルに回転数をあげて始動する車は徐々にスピードを上げていく。

そういえば土方が運転するのは初めて見たと、沖田はその手元から相手の横顔を見上げる。
「土方さん…?」
ギアが上がるのにつれてスピードを増すのに、沖田は僅かに不穏なものを感じて声をかけるも返事はない。
路面を滑るパトカーは赤信号に差し掛かるがスピードの緩まることは無かった。
「ひ、土方さん!?」
むしろ加速を加える勢いで信号を突っ切った車は前方を走る車をあっさりと抜きさる。
邪魔な先行車を散々煽ってはどかせ突き進むパトカーに逆らう車などまず無い。

カーブに差し掛かるもそのスピードが緩められることは殆ど無かった。

ぎゅんと身体に掛かるGに上体を傾けて切り抜けるカーブ、そのすぐ先に路上駐車されていた車が現れて沖田は息をのんだ。
土方はそのエンジン音にも飲まれない舌打ちを一つ、なんなくハンドルを切ってソレをかわす。

「クソったれ!停めてんじゃねぇよっんなトコにっ!!」
悪態をついて突き進む暴走パトカー。沖田は土方のその変貌振りに目を見張る。
車の間を縫ってジグザグに走行する車に沖田は車酔い気味だった。

「ひ、ひじかっ…さん!気持ち…悪いっ…」
「黙ってろっ舌噛むぞっ!」
沖田の訴えを全く聞くことなく、いや、実際耳に入ってないのかも知れない。
到底心にまで届いているようには見えなかった。

間違いねぇ…この人スピード狂だ。
たまにいるハンドルを握ると性格が豹変するタイプだ!

その視界に掠める土方の横顔はアドレナリン全開といった感じで、一種好戦的なものを感じさせる。
楽しくてたまらないというその様子に、出かける前の近藤の微妙な笑みを思い出す。



――ほら、トシってペーパードライバーだからさ

ぎゃおんとでも擬音をふろうか、地を這うように走り滑るその車は障害物を急カーブで切り抜けつつ、ただの一度も信号に止まることなく実に行きの倍速以上で屯所へとたどり着いたのである。

ぴたっと張り付くように屯所に横づけされた車から降りる土方の顔は実に晴れやかである。
「はー…なんか爽快だ。……どうした総梧、早く降りろよ」
車外で背筋を伸ばして、未だ車の中の沖田を窓越しに覗き込めば、沖田は大分グロッキーといった様子でシートにもたれかかっていた。

そこに門の奥から顔を出した近藤は微妙な半笑いに唇の端を引きつらせている。

「……トシ。」
「…あ、近藤さん…いやこれはだな。」
その声に振り返る土方が近藤の姿を捉えると一瞬たじろいだ。
固められた近藤の拳がごつりと土方の頭を叩く。

「お前は運転するなと言っただろうが」
「んな事言ったって…総梧の運転危なっかしくてよォ」
「トシの運転はきっぱりと危ないの!危なっかしいじゃすまないの!!」
きっぱりと断言されて口ごもる土方を尻目に、助手席のドアを開く近藤に沖田はぐったりと視線を向ける。

「何がペーパードライバーだコノヤロー…」
「いや、総梧ゴメン…」

片手を顔の前にあげて侘びを入れる近藤、


だから、だから誰も土方さんに運転させないんだ……

一人納得する沖田の胸には二度と土方にハンドルを握らせまいという決意だけは深く刻まれたのだった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ