□葛湯(沖土)
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「いや、見事に風邪っぴきだねい、こりゃあ…」
38.4分を示す体温計を見つめて一言こぼす。
冷水で固く絞った手ぬぐいを土方の顔に無造作においた。

「お前のせいだろうが…」
顔全体を覆うその手ぬぐいをもそっとした動作で布団から手を伸ばすと、たどたどしくも丁寧に折り額に置きなおして土方が苦情を申し立てる。

「馬鹿野郎…だからいやだって言ったんだ…」
「いやぁ…若ぇからおさえがきかねぇんでさぁ」
ははっと笑う沖田に熱にうかされた熱い吐息とともにぼやきを吐き出しても、のれんに腕押しでまるで効果が無い。

「でも土方さんも割りとノってたじゃねぇですかィ青姦。」
「だ・ま・れ…!!」
「へーーい」

冬とまではいかないも外はもうすっかり肌寒いというのに、市中見回りの最中いきなり盛った空頭こと沖田は物陰で迫ってきた。
抵抗を試みるもすぐ向こうには人通りがあって、服を剥がれりゃあ見られるわけにもいかない。

結局……というわけで、そして極め付けがこれ、ものの見事に風邪という特典付きだった。

「なんか食いますかぃ?」
「いらね…」

「でも食わねぇと薬飲めねぇし…粥くらい食いやせん?」
「……それも食いたくねぇくらいだりぃんだよ…」
誰かさんのせいでな…と嫌味を込めていってみてもさして気にした様子も無かった。

んーじゃあ、といって部屋を出た沖田がもってきたのは葛湯だった。
「これならいけるでしょ。」
「……微妙なもんを…ってーかお前、これポットでやったろ?」
「なんでです?」
「完全に沸かした熱湯でやらねぇとちゃんと透明にならねぇんだよ…濁ってる…」

「いいじゃないですかぃ、んな細けぇこたぁ同じだろぃ、はいあーーん」

ただでさえも葛湯なんざ食いたくもないってーのに、失敗作ってのが気に入らん、などという土方のこだわりなど沖田に理解出来るわけもない、腹に入れば同じだというのが沖田の主張だ。
しぶしぶながらそのなりそこないの葛湯をとりあえず食う事にして、上半身をおこす。
「あーーん。」
「……いいよ、自分で食う…」
「いいから。あーーーんっ」
「しつけぇぞ、自分で食うってんだろ」

とろりとサジの上に満ちたそれはサジの裏側をつたって、土方の手の甲にぽとりと落ちる。
「熱っ…!」
とっさに跳ね上げた手は運悪くサジをもった沖田の手にぶつかって、さらに葛湯がこぼれる。
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