□どらいばーず・はい
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「土方さーんっ」
「声かけてから開けろって言ってんだろが」
声とともに開かれる自室のふすまにそう返して、土方は文机の上の書類からその視線を上げることはない。
その眼前に沖田が差し出した小さな手帳のようなそれに土方はやっと顔を上げる。

「とれたのか…」
こくりと無言で頷く沖田のどこか得意げな様子に年齢相応の可愛らしさを感じて土方は口元を微かに笑わせた。
渡されたケースにちゃんとしまってあるのもまた微笑ましい真新しい運転免許証、大抵邪魔になってすぐあんなカバー剥がしてしまうものだが。

「苦労したんでィ」
「おまえがあんまり教官苛めるから判子貰えなかったんだろが、どーせ。」
「心が狭いんでィ、あのオッサン共…まぁちょっと脅してやったらハンコつきやしたけどね」

「俺は…教習所に謝罪入れねーとならねーのかオイ」
沖田の言葉にその表情を曇らせる土方の腕を掴んで沖田がにっと笑みを浮かべる。

「ソレはまぁ土方さんに後々おまかせするっつー事で、ドライブにいきやしょ!」
「…おまかせって…あ?ドライブゥゥ?!お前の運転でか?!」

「なんでィその嫌そうな顔…」
沖田の要求にいやそうな声をあげる土方を半眼に睨みつけると、土方は再び書類へと目を落とす。

「俺、仕事急がしいから」
「じゃあ見回りでさァ!!行きやしょうぜ!」
「……他の奴と行けよ」
「……免許取って一番最初の助手席は、土方さんに座って欲しいっていう俺の可愛い心がアンタ解からねぇのかィ…」

何が可愛いだ、などとツッコミを入れようとするも、その軽口の中に織り込まれた本音は確かに本物なのだろう。
大きなため息とともに、もしかすると片道切符かもね?なドライブのチケットを土方は受け取った。


。。。。。。。。。。。。。。。。。

「じゃ、行ってきやす」
シートベルトをきちんと締めて、ハンドルを握った沖田が窓の外の近藤とその後に並ぶ数人の隊士に声を投げるも、その視線は沖田を通り越して土方に向けられている。

「トシ…達者でな…」
「近藤さん…俺がいなくなってもちゃんと仕事しろよ。ストーキングばっかりしてたら駄目だからな…。」
「あぁ…解かってる。」
こっくりと頷く近藤に頷き返して、その視線を隊士達へと向ける。
「お前らも、しっかりやれよ。」
「副長ォォォ!」

「お前らなんの嫌がらせでィ…」

まるで今生の別れかとも思えるような見送りに沖田が呟きを零せば、近藤は喉を鳴らして笑う。
「まぁまぁ、総梧。安全運転で頼むな。ちゃんと運転して帰って来いよ。」
「解かってまさァ」
「トシに運転させるなよ」
ぼそっと耳打ちする近藤に沖田はちろっと不思議そうな目を向ける。

「……トシはほらペーパードライバーだからさ」
小さな苦笑とともにそう付け足した近藤に見送られて、初心者マークを貼り付けたパトカーは発進した。


滑り出しはスムーズ、運転は初心者にしてはまぁ下手じゃないと思ったのは最初だけ。

やはりどこか慣れていない人間のたどたどしさというものはある。
「ウインカーが遅ェよ、曲がり始めてから点けてどーすんだ。曲がる前に点けろ」
「へーい」

「余所見すんな余所見っ!」
「してねぇよ、煩いねィ」

「んだとコラ!」
「いーから黙って乗ってなせェよ」

「誰のせいでひやひやしてると思ってるんだ、ちなみにブレーキも遅い。もっと早く踏み始めろ、初心者なんだから。」
「十分止まれてまさァ」
「俺はさっきから前に突っ込むんじゃねーかって怖ェんだよ!!」

どやしつけると堪えた様子もないがそれでも一応その指示には従ってくれた沖田に、土方はひそかに安堵して体の力を抜く。
ふとその視線を横を流れていく景色へと向ける。
かなり屯所からは離れた、まぁ見回りにこじつけたドライブなのだろうからソレは構わないのだが、何処に向かっているのだろうかなどと土方はぼんやり思考を巡らせていた。
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