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□分岐
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「トシ、話があるんだが」
「…あ、あぁ、ごめん、今ちょっと。」
「チョットなんだ?」
「いや、あー、見廻りに…」
「今帰ってきたんだろ?」
土方が言葉につまる、帰ってきたところを見られていたとは思わなくて、とっさにそう言ったのが裏目に出た。
失敗した、という顔を一瞬浮かべたのを、近藤は見逃さず、子供を叱る親のような目で、じっと土方をみすえる。
うぅっ…っと怯む土方に睨みを効かしつつ、めずらしくいつもはつりあがった眉が八の字をえがいているのをみて、もう一押しで白状するかな、とにじりよった。
「局長、ちょっとよろしいでしょうか?」
土方が一歩後ずさった所で、山崎が唐突に近藤を呼んだ。
振りかえった近藤に書類を見せつつ、山崎が説明をし始める。
「これ、急ぎみたいなんで、至急お目通し願います。先方、待ってらっしゃるんですよ。」
「あ、ああ、解かった。」
どたどたと自室に向かう近藤の背をほっとして見送れば、途中で近藤が振りかえった。
「トシ、ちょっと待ってろよ?いいな!」
そういう近藤に手をひらひらさせて答えて、近藤に付き添って書類を抱えた山崎がぺこりとこちらに会釈するのに目だけでサンキュと礼をいった。
正直助かった。
今、近藤さんと二人にはなれない。
沖田の目が怖いとかいうのも無くはないが、でもそれ以上に今近藤とふたりになるなんて、そんなのは、俺が辛いと土方は眉をひそめる。
まっすぐに、近藤さんの眼が見れねぇ…
好きだと、はっきり認識してしまったからなのだろうか、辛いんだ、あんたの傍で普通にしてるということが。
わりぃ、近藤さん、
もう少し時間くれよ、そうしたらいつもみたいに、
今までみたいにアンタを慕う真選組の副長に戻るから…
もう少し待ってくれよ
なんにも無かったみたいに、あんたの隣にいるから
ぼんやりとそんなことを思って立ち尽くしている自分に気がつく。
本当に待っててどうする…
山崎がつくってくれた隙をついてこの場から逃れなければ…
土方は慌てて、その場を離れた。
結局、屯所内ではまず見付かると判断して、外へ出た。
見廻りなんていくらしても悪い事はないだろうし、ふらふらして時間を潰すことにした。