□双極−蒼璧−
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正直あまり食欲はないものの、不安げな山崎を見て少しは食べなければと考えを
改めた。

「……?」
机の上の書類に眼をやって、ふと気がつく。
三つに分けられた書類の束の一山は処理した覚えがないのに終わっていて。
「山崎っ」
「…?はい?」
扉を開け既にその外に出た山崎が顔をのぞかせる。
「これ…」
「……あぁ、すみません、そっちのは副長が眼を通すまでもなさそうだったんで
、処理しちゃいました。で、そっちのふたつは、左が眼を通していただきたいの
で、右が判子だけついていただけたら大丈夫なものです。俺やっても良かったん
ですけど一応そっちのは副長に押していただいた方が無難かと判断したんで、置
いておきました。」

「あ…ぁ、悪い…本当に…」
一気にそういい切った山崎に少し飲まれつつ土方が礼を言えば、いいえっと景気
よく返事をしてかけていってしまう。

自分は本当に心配をかけているのだと自覚して山崎の出て行った扉を見つめた。
引き出しから煙草とライターを取り出して火をつける。
なれた葉の焼ける匂いに僅かに安堵する。

本来なら、自分は今幸福感の只中にいても不思議では無い。
それくらいのことではあるのだ。


なにせ、自分は―――
近藤さんに受け入れてもらったのだから。


なぜ手放しで喜べないのか…
いや、嬉しい、
それは確実で…
これ以上無い喜び…であるはずで

何年越しの想いか知れぬその恋心が成就したのだから…


「……はぁ…」


「何ため息なんてついてんでさぁ」

扉の開く音と共に飛び込んできたその声にびくりと土方は顔を上げる。
扉の開くのも、足音も聞こえてはいた、ただ入ってくるのは山崎だと思い込んで
いたからほぼ不意打ちで現れた沖田に土方は僅かに慌てた。

「これ、近藤さんが持っていけって」
「……あ、ああサンキュ」
とさっと机に置かれた封筒にはまた何らか書類が入っていた。

「お仕事増えちゃいやしたね…」
「……」

「土方さん?」
「あっあぁ…いや…大丈夫だ」

「そうですかぃ」
「あぁ、わざわざ悪いな…」

そういう土方にいいえと返して、出て行こうとした沖田と、盆を手にした山崎と
が鉢合わせる。
眼に入ったのは僅かに、でも確実に顔色の変わった山崎の顔色…

それは一瞬にして山崎自身によって捻じ伏せられ、その後にはなんのことの無い
会話…、それでも土方は見逃しはしなかった。
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