死神の名づけ親

□死神の名づけ親
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昔、年とった男がいました。その男にはすでに12人の子どもがありましたが、
13番目の子どもが生まれると、もうどうしていいか分からず、困り果てて森へ入って行きました。
そこで男は神様に会いました。そして神様は
「気の毒に、貧しい人よ。私があなたの子どもの洗礼に立ち会って、その子の面倒
をみてあげましょう。その子はこの世で幸せになりますよ」と言いました。男は答えて言いました。
「あなたに名付け親になってもらうのはごめんだ。あなたはお金持ちには与え、貧乏人にはひもじい思いをさせるのだから」
そう言うと、男は神様をそこに残して先へ歩いていきました。それから間もなくして、男は死神に会いました。
死神も同じように男に話し掛けてきました。
「私が名付け親になって、あなたの子に洗礼を授けよう。
私を友達にすれば、何も困ることは無い。その子を医者にしてやろう」男は言いました。
「そいつは気に入った。あなたはわけへだてなく、お金持ちも貧乏人も連れて行く。明日は日曜だ。
子どもの洗礼をすることになっている。遅れずに来てくれよ」

 次の朝、死神がやって来て子どもの洗礼に立ち会いました。
その子が大きくなったとき、死神が再びやって来て、子どもを連れて森へ入って行きました。
そこで死神は子どもに言いました。
「さあ、おまえは医者になるんだ。病気の人に呼ばれたら、気をつけて見るんだよ。
私が病人の頭の方に立っていたら、おまえは何を言うに及ばない。
この瓶の匂いを嗅がせて、中身を足に塗ってやりなさい。病人はじきに元気になるだろう。
でも、もし私が足の方に立っていたら、おしまいだ。そいつは私のものだ。治してやろうなんてするんじゃないよ」
そう言うと死神は瓶を渡し、その子どもは有名な医者になりました。
ただ病人を見さえすれば、その人がまた元気になるのか、死ななければならないのか、前もって言うことができました。
あるとき、医者は王様のところへ呼ばれました。王様は重い病気で床についていました。
医者が中に入ると、死神は王様の足の方に立っていました。これでは瓶はもはや役に立ちません。
けれども医者は死神をだましてやろうと思いつき、王様をひっつかむと逆さに置いたので、死神は王様の
頭の方に立っているようなあんばいになりました。これがうまくいって、王様は元気になりました。
けれども医者が家に帰ると、死神がやって来て、ひどく怒った顔をして言いました。
「もう一度私をだまそうなんてしたら、おまえの首をひねってやる」
それから間もなく、王様の美しい娘が病気になりました。
世界中の誰にも姫を治すことができず、王様は昼も夜も泣いていました。
しまいに王様は姫を治すことができた者にはほうびに姫をあげる、とおふれを出させました。
そこで、医者がやって来て、死神が足の方に立っているのを見ましたが、姫があんまり
美しいのに驚き、警告はみな忘れて、姫の向きを変え、病気を治す瓶を嗅がせ、中の薬を足の裏に塗りました。
医者が家に帰ってきたとたん、死神が恐ろしい顔をして医者の前に立ちました。
死神は医者をひっつかまえると、地面の下の洞穴に連れて行きました。
そこには何千ものろうそくが灯っていました。「ほら」死神が言いました。
「これはみんな生きている者たち。そしてこのろうそく、もうあとほんの少し燃えて、じき消えようとしているこの火が、おまえの命だ。気をつけな!」
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