*灰かぶり*

□灰かぶり
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昔、ひとりのお金持ちの男がいました。男は長いこと、妻と幸せに暮らしていました。
ふたりには娘がひとりありました。それから妻は病気になりました。
そして、死ぬほど病気が重くなると、母親は娘を呼んで言いました。
「かわいい子よ、私はおまえをおいていかなければなりません。
でも天国に行ったら、おまえのことを上から見ていますよ。私のお墓の上に小さな木を植えなさい。
そして、なにか欲しいものがあったら、その木を揺すりなさい。
それにおまえに困ったことがあったら、助けを送りますからね。だから、いい子にしていらっしゃい」
そう話すと、妻は目を閉じ、死んでしまいました。子どもは泣いて、小さな木を1本、お墓の上に植えました。
その木に水をやるのに水を運ぶ必要はありませんでした。なぜなら、子どもの涙で十分でしたから。

 雪がお母さんのお墓に白いハンカチをかぶせ、太陽が再びそれをはがし、お墓に植えた木が
2度目に緑になったとき、男は別の女を妻にしました。
けれども継母には、最初の夫との間に娘がふたりありました。
ふたりは顔は美しかったのですが、心は高慢でうぬぼれが強く意地悪でした。
結婚式がとり行われ、この3人が家にやってくると、子どもにとってつらい時が始まりました。
「ろくでもない役立たずが、居間で何をしているんだい」と、継母は言いました。
「とっとと台所へ行きな。パンが食べたきゃ、まずその分働くんだね。わたしたちの女中になればいいんだ」
それから継姉さんたちは娘の洋服を取り上げ、古い灰色の上着を着せました。
「おまえにはこれがお似合いさ」と言って、ふたりの継姉さんたちはその子をあざ笑い、台所へ連れて行きました。
そこでかわいそうな子どもは骨の折れる仕事をしなければなりませんでした。
日の出前に起き、水を運び、火を起こし、食事の支度をし、洗濯をしなければなりません。
その上継姉さん達は、ありとあらゆる心痛を与えたり、あざけったり、灰の中にえんどう豆や
レンズ豆をあけたりしたので、子どもは1日中座り込んで、豆を選り分けなければなりませんでした。
疲れても、晩、ベッドに入ることはできず、暖炉の脇の灰の中に横にならなければなりませんでした。
そして、そうやっていつも灰とほこりの中をはいずりまわり、薄汚く見えたので、灰かぶりと呼ばれるようになりました。

 あるときのこと、王様が舞踏会を催しになり、舞踏会はきらびやかに3日間続くことになりました。
そして、息子の王子がお妃を選ぶことになっていました。
その舞踏会に、ふたりの高慢な姉さん達も招かれました。「灰かぶり」、姉さん達は呼びつけました。
「上がっといで。わたしたちの髪をとかして、靴にブラシをかけるのよ。
そして、しっかりと靴紐をお結び。あたしたち、舞踏会の王子様のところへ行くのよ」
灰かぶりは一生懸命に、できるだけきれいに姉さんたちをおめかしさせました。
けれども継姉さんたちは、灰かぶりを叱りつけてばかりで、支度がすむと、あざけるように聞きました。
「灰かぶり、おまえも一緒に舞踏会に行きたいわよね?」
―「ええ、それはもう。でも、どうやって行けばいいのかしら。わたしにはドレスがないのですもの」
―「ドレスがなくて良かったのよ」上のお姉さんが言いました。
「お前が舞踏会に行ったら、あたしたち、恥をかくところさ。
おまえが私たちの妹だなんて、ほかの人たちに聞かれでもしたらね。
おまえは台所にいればいいんだ。ここに鉢いっぱいのレンズ豆があるから、
あたしたちが帰ってくるまでに、これを選り分けておくんだ。悪いのが混ざらないように、よく気をつけてね。さもないと痛い目にあうからね」
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