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□風景
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「はぁ・・」

教室。机に突っ伏しながら深い溜息をつく。
その原因は、この視力の所為だ。
幼い頃はハッキリ見えていた風景も今では少しぼやけてきて、
黒板の文字も見づらいのだ。
でも、私は眼鏡をかけたり、コンタクトにしたりは絶対したくない。
個人的な、どうしようもない意地である。

「ナツ、どうだった?」

親友のマリが隣の席に座って私を・・・ぃや、私の身体測定結果を眺めている。
そんなにまじまじと見られるような結果でもなかったはずだけど・・。

「へぇ〜!体重減ってんじゃん!!」

「体重?減ってないよ・・・それに、視力が下がったし」

ぷい、と視線をそらす。
私がご機嫌ナナメなのが伝わったらしく、ちょっと困ったような、
仕方ないなーという顔をしているのが手に取るように分かった。

「でも・・ちょっとだけじゃん?悪くなったっていっても」

「でもね・・眼鏡とかコンタクト本気で嫌なの!」

そう。絶対に嫌だ、どうしてなのか自分でも分からないケド。
とにかく眼鏡やコンタクトに頼りたくない、というのが一番の理由だったのかもしれない。

「・・今まで視力下がった事なかったのに・・・どうしよう・・」

「ぁー・・なんかね、ブルーベリーって目に良いらしいよ?」

視力が下がったのは左目。
右目を隠して物を見ると、右目だけで見た時よりも遠くの物がハッキリ見えない。
文字も絵もぼやけて、私の視界の邪魔をする。
たったそれだけの事なのに、私にとってはとても恐ろしい事のように思えた。
―今まで見えていた世界が・・・もし、見えなくなったら・・?

大袈裟に言うとそんな感じの心配だ。
馬鹿だと思われるかもしれない、そんなの考えすぎだと笑われるかもしれない。
けれど自分にとっては一生を左右するかどうか、そのくらい重要な問題である。

「ブルーベリー?分かった・・食べる!!それから、TVもあんまり見ないようにするし・・」

「ぇえ〜?そんなに心配なの??ちょっと下がっただけじゃんか」

・・・そのちょっとが怖いんだって。と言ってあげたかった。

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