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□道化師は夜空に哂う
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真っ暗だ。

わずかな光も通さないかのように張られたテント。

とたんに歓声、スポットライト。

ボクに向けられている視線。

何もないステージの上、ライトに照らされ踊る。

左へ右へ、前へ後ろへ。

何故踊るのかも分からずに、踊る。








くるくる、くるるん。








鳴り止まない歓声、音楽。

頭の中でこだまして、めまいがする。

それだけじゃない、ずっと当たってるライト。

これにもクラクラする。

追い回すハンターたちは休む事を知らない。

踊るのをじいっとみて、哂っている。

ただ哂っている。

ボクも哂っている。

狂っている、世界。

ボクが哂うのをやめたらどうするんだろう。

踊るのをやめたらどうするんだろう。

何も変わらない。

ただボクが哂わなくなっただけ。

彼らは哂い続けるのだろう。

この夜に酔いながら、朝の存在を忘れて狂い続けるのだろう。

ボクは還る。

正常な世界へと。

狂気に満ちた世界を棄てて。









スポットライトが消え、音楽がとまった。

再び訪れた闇。

不思議と怖くはなかった。

ゆっくりと、導くように射してきた光が。

ボクを包み込んでくれたお陰かもしれない。

ボクは還ってきた。

光溢れる世界へと。

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