閑話休題
□きみとぼく
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『天城さんちのお嬢さんって、本当に可愛いわね』
そう言って笑う大人達の姿が、俺はあまり好きじゃなかった。誰も彼もが似た様な笑顔で、何処か薄っぺらさを感じていたから。
それは当の寧音ちゃんも同じだったようで、大人達がそう言うと決まって不機嫌そうにそっぽを向いていた。
寧音ちゃんの家は地域でも有数のお屋敷だった。
お父さんは県の代議士で有名だったし、お母さんも何処かの大学の教授とかで家に居る事が少ないらしい。
そう知ったのは俺が小学生の頃。とは言っても本当の意味で寧音ちゃんの両親の仕事が分かったのは、まだまだずっと先の事だ。
幼稚園バスに乗って家まで帰る。
地域別に下ろされた先にはお母さん達が待っていたけれど、俺と寧音ちゃんだけは違っていた。
俺の家は共働き。母さんは新聞社に努めていて夜も遅い。家に帰っても愛犬のヤマトが尻尾を振って待っているだけ。
けれど寧音ちゃんちは。いつも綺麗なエプロンドレスを身に付けたお手伝いさんが、お母さんの代わりだった。
幼稚園と小学校。中学や高校も含めれば十年以上の付き合いになるけど、俺と寧音ちゃんが仲良くなったのは小学校三年の時だった。