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□君とこの世界で
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「リスルゥ、明日香はどこに行った」

「……外れの…湖。ちょっと一人にして…って」

相変わらずしょげたままのリスルゥの頭を、少し乱暴にヴェンツェルが
くしゃっと撫でる。

「…連れて帰って来るから安心しろ。小屋の中で待ってろ、いいな?」

ヴェンツェルの言葉に、リスルゥが何度も何度も大きく頷く。
彼女が小屋に入ったのを見届けてから、ヴェンツェルはゆっくりと湖の方へと足を進めた。


暫く歩けば、目面に大きく広がる綺麗な湖が目に入ってきた。
ぐるっと湖畔を見渡せば、一人ぽつんと岸に腰掛ける明日香の姿が目に入る。

「………おい」

背後から声をかけるが、明日香は振り返りもせず、ぼんやりとオレンジに染まった
水面を見つめている。
明日香の手には、携帯電話がしっかりと握られていた。

「明日香」

名前で呼べば、ようやく明日香がヴェンツェルの方を振り返った。
少し…寂しそうな、切なげな表情に、彼の心臓が小さくトクンと脈打つ。

「…あちらの世界から、連絡があったらしいな」

ヴェンツェルの言葉に、明日香が小さく頷いた。

「…で、お前は帰りたいのか、あちらの世界に」

尋ねるが、明日香はふるふると首を横に振る。


家族や友人と別れて、こちらの世界で生きていく事を決めたけれど。
初めから覚悟ができてた訳じゃ無い、割り切れてた訳じゃない。


いつだって気がかりだったのだ。


帰りたくない訳じゃない、だけど…ヴェンツェルとリスルゥの居ない世界で
生きていくのはもっと、ずっと…嫌だった。



草を踏む音が近付いて、彼の影が近付いて。
伸ばされたヴェンツェルの手が、明日香の手にしていた携帯電話を掴む。
取り上げられた携帯を目で追って。
振り返った明日香の瞳に映った、ヴェンツェルの姿。

パクンと音がして、開かれた携帯の画面をヴェンツェルは黙って見つめている。
画面には一文、こう表示されていた。



[今、どこに居る?無事か?
絶対にお前を探し出すから、信じて待ってろ]



差出人は、明日香の兄…。
その文面を見た彼の顔が、皮肉めいた笑みに変わる。
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