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□片割れ月
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薄暗い部屋の中、自室のベッドに体育座りのまま、腰掛けたみちるがいた。
窓から差し込む半月の淡い光だけが、ぼんやりとみちるの姿を
照らし出している。

右手を押さえる様に、その手首を掴んだ左手。
彼女の手は小刻みに震えていて。

震える右手を口元に伸ばしたみちるは、そのまま堅く堅く掌を握り締めた。
爪が食い込み、掌にいくつかの紅い後を残す。

「わ、たし…」


手から僅かに香る、硝煙の臭い。
洗っても洗っても、消えなかった臭い。
手に、身体に残った発砲時の衝撃と、感覚。




数時間前、思徒の銃を手にして…。
みちるは芝を撃った。



それはチカを助ける為だった。
だけど…。


「私が殺したも…同然…だよね、あんなの…」

呟いて、膝に顔を埋める。



芝は無法ゾンビだったのだ。
もう…既に一度は死んでいる存在なのだから、
自分が『殺した』という表現はおかしいし。
罪にも問われる事は…無い。

でも…どんなに自分にそう言い聞かせたって、
どこかで納得できない自分がいる。


芝を撃ったのは、紛れもない事実なのだから。


「…っっ」

肩に回した手に、無意識に力がこもる。
と、微かに廊下の向こうに感じた気配に顔を上げると
続いてドアをノックする音が部屋に響いた。
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