他ジャンル作品T

□君とこの世界で
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「………そんな所で何をしているんだ、オマエは」

世界が茜色に染まる、夕暮れ。
茜色から、夜への群青へと色を変えつつある時間。

どこへでかけていたのか分からないヴェンツェルが、
明日香達と生活している小屋へと帰って来た。
そこで目についたのが、寂しそうに小屋の入り口に腰掛けたリスルゥの姿。
明日香は居ないのか、小屋の中はひっそりと静まり返っている。

…いつもなら、夕飯の仕度をする明日香と、手伝いをするリスルゥとの声が
楽しそうに外まで聞こえて来ているのに…。

「リスルゥ、明日香はどうした?」

聞けば、リスルゥが耳をへたっと伏せたまま、ヴェンツェルの方を見上げる。
「マスタ〜…」と小さく唸って、泣きそうな顔をしたまま彼の胸に飛び込んだ。
ぽすっと預けられた身体は、少し冷えていた。

「…何があった」

背中に回された手が、きゅっとヴェンツェルにしがみつく。
リスルゥは悲しい時や寂しい時に、決まってこういう行動を取る。

…が、明日香が来てからは寂しさの余り抱きついてくる、という行動は極端に
減っていた筈だ。
自分が居ない間は、明日香がいつも彼女の傍に居たし。
明日香が仕事で出かける時は、教会でクラウスやエマに構って貰っていた筈。
それなのに。

ずっとここに居たという事は、明日香は仕事に出かけたのでは無く
どこか近くに居るのだろう。


何故か…リスルゥを遠ざけて、一人で。


「リスルゥ」

名前を呼べば、リスルゥの耳がほんの少し上を向いた。

「マスタ、明日香…帰っちゃうのかな……」

「…何?」

「だってね…明日香のピカピカ、勝手に光ったの。
…でね、ピカピカ開いた明日香、痛そうな顔してた。泣きそうな顔してた…」

そのリスルゥの言葉に、ヴェンツェルは昔した明日香との話を思い出していた。
リスルゥの言うピカピカは、携帯電話とかいう代物の事だろう。

彼女は携帯電話を、自分の世界への唯一の連絡手段だと言っていた。
繋がれば、自分の世界の親しい住人達と、会話をしたり文面をやりとりできるのだと。


「…向こうの世界から…連絡が来た、という訳か」


「今更」とヴェンツェルは笑ってみせる。
だって明日香には一度、元の世界へ帰れるチャンスを与えたのだ。
しかし、彼女は戻る事を選ばず、自分とリスルゥの元に残る事を選んだ。

今になって、心が揺らごうが…自分は手放す気は微塵も無い。
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