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□私の居場所
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「明日香、明日香っ!ピカピカ、光ってる!」

「…えっ?」

朝食の食器を洗っていた明日香に、リスルゥの声が飛び込んでくる。
彼女の指さす方向を見れば、自分の携帯電話がベッドの上に転がっていた。

「ピカピカ…って、リスルゥ…私の携帯、また弄ってたの?」

「ううん、勝手にピカピカ光って音がしたのっ」

まだちょっと警戒した様に携帯の様子をうかがうリスルゥに、
明日香が首を傾げる。


この世界に飛ばされてから、一度だって携帯が繋がった事は無かった。
電話どころか、メールの送受信ですらできなかったのに。


慌ててタオルで手を拭くと、転がっていた携帯を手に取って画面を開く。

見馴れた待機画面の上に表示された文字、それは…

[新着メール1件アリ]

…という文字。


「嘘…っ…メール…受信してる…。でも…誰から」

カチカチとボタンを操る明日香の一挙一動を、リスルゥが目を
ぱしぱししたまま見つめている。
暫くして、携帯を操っていた明日香の手がぴたっと止まった。

画面を見る明日香の瞳が、揺らぐ。
携帯を持つ手は、ほんの微かに、震えた気がした。

「………明日香?」

微動だにしない彼女に、リスルゥが恐る恐る声をかける。
と、明日香が弾かれた様に顔を上げた。

「ん、ゴメン、リスルゥ。ちょっと…ぼーっとしちゃった」

「……平気、明日香っ?」

覇気無く微笑む明日香に、リスルゥの顔が泣きそうにくしゃっと歪む。

「ごめん、リスルゥ。ちょっと…出かけて来てもいい?」

「リスルゥも行くっ」

間髪入れずにぴんっと耳を立てた彼女を、宥めるように明日香が撫でる。
「一人にして」と語っている明日香に、リスルゥの立っていた耳がへたれた。

「………駄目?」

「…ん、直ぐ帰るから…、ねっ?」

宥められて、リスルゥはすごすごと下がると、部屋の隅っこに
ちょこんと座り込んだ。
いまいち納得して無い風だったが。

………と、出て行く明日香を見送ったのが、2時間程前だったか。

待ちきれないリスルゥはしばらく家の中を右往左往していたが、
その内に今度は家の外でウロウロとあっちへ
コッチへ移動を始めた。
…まぁ、彼女は元々が落ち着きのない猫なのだから、仕方がない事なのだが。
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