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□Silent Christmas
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「へぇー…この世界にもあるんだね、クリスマス」

「うん、クリスマスの夜、12時にね、一番会いたい人を思い浮かべて
姿鏡の前に立つと、その人が鏡から出てくるんだって!」

「素敵よね!」とはしゃぐミーナを余所に。
それって詛いの一種なんじゃ無いの…と、ちょっと青くなるのは
キ・キーマとワタルの二人だ。

「ミーナは…やっぱり、お父さん?」

「…うん」

尋ねれば、顔を赤くした彼女が嬉しそうに耳を伏せる。

「そう言うワタルはどーなんだぁ?」

大きな声でキ・キーマに尋ねられて。
ワタルが、ガタゴトと目前で揺れる馬車の車輪を見つめる。

「ボクの…会いたい人は……」



Silent Christmas



カチコチと、部屋に備え付けられた時計が、一秒、また一秒と時を刻む。
ワタルは毛布にくるまったまま、やはり部屋に備え付けられていた
姿鏡の前に立っていた。

「会いたい…人、かぁ…」

呟いて、奥のベッドを見ればキ・キーマが大きないびきをかいて
転がっている。
初めから、余りクリスマスに興味の無さそうだった彼は、
食事が終わると、早々にベットに潜り込んで寝息を立ててしまった。

隣の部屋のミーナは、もしかしたら自分と同様に
今、鏡の前にこうして立っているかもしれない。
そんな事をぼんやり思いながら、そっと鏡に手を触れた。

今、ボクが本当に会いたい人って誰だろう?

思いを巡らせても、この人!と断言する事が出来ない。


母さん?父さん?それとも……。


ぐるぐると考えていて、ふと頭を過ぎった芦川の存在。
彼ならきっと……。


「妹に…会いたいって願うんだろうな」


呟いた自分の息が、白く尾を引いて、部屋に馴染んだ。

その為だけに、彼はヴィジョンに来たんだから…。
もしもう一度会えるなら、間違いなく妹との再会を願うだろう。
たとえそれが一瞬の物だったとしても。

「だったら……芦川が、妹に会えるといいな…」

鏡の中だけでも。

そう願ったワタルの前の鏡に、ゆらりと影が浮かぶ。
ぎくっとして顔を上げれば、鏡の奥に、確かに自分のもので無い
人影が浮かんでいる。
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