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□一目惚れ
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一目惚れって、こういうのを言うのかな…。


あの幽霊ビルで、始めて芦川に会って。
ココロを鷲掴みされたみたいに、引き寄せられた。

月明かりに、キラキラ輝いた金色に近い、薄い茶髪。
人よりも白くて、透き通った肌。
吸い込まれそうな、漆黒の瞳にも。

「……アヤ…なのか?」

そうボクに問いかけた芦川の、優しい顔と透き通った声に。
激しく脈打った心臓に、僕自身がビックリした位。


僕は芦川に惹かれてた。







「芦川っ、アヤ…って、誰の事なんだよ?」

「またその質問か?しつこいな、お前も」

幽霊屋敷で、上級生との喧嘩の後。
ワタルとミツルは近くの公園でベンチに座りながら、ジュースを飲んでいた。
話の途中、興味津々に尋ねたワタルに。
溜息と一緒に、ミツルが面倒臭そうに言葉を吐き出す。
繰り返し尋ねるワタルに、ちょっと迷惑そうな顔をミツルはしたけど
気になるんだから、しょうがないじゃ無いか。

「好きな女の子…って言えば、それで満足か」

「え…っ」

投げやりに認めたミツルが、持っていたジュースの缶を
乱暴にゴミ箱へ放つ。
カァン…と小気味よい音が、とっぷりと暮れた藍色の空に響く。

「何でそんなに気にするんだ?それが好きな子の名前だったとしても
お前には関係無いだろ」

"関係ない"そう言われた事が、やたらワタルの胸に棘みたいに突き刺さって
すごく……苦しい。
何だろう、この気持ち。…知らない…感情。
押し黙ったワタルに、芦川が盛大に息を吐いたのが分かった。

あ、呆れられてる…?

……だって、だってさ、何でだか分かんないけど…気になるんだ。
芦川が…あんなに優しく、愛おしそうに語りかけた誰かが。
自分ではない、芦川が想うその人が。

「…っ、もういいよっ!もう聞かないからっ!」

そっぽを向いたワタルに、ミツルがまた溜息一つ。
堪えてるのに、ただひたすら苦しくて、切なくて…胸が…痛い。
目尻に涙が滲んだけど、その理由もワタルにはさっぱり理解不能で。

ゆっくりと自分に近付いてきたミツルの気配。
背中にそれを感じるけど…、振り向けない。
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