ワンピ長編夢V

□空島最終楽章
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  コツコツ…



ティアラは一人。
シャンディア達が休む遺跡建物へと足を向ける。
その途中。
前方からワイパー達が歩いて来る。戦士達の傷はまだ癒えず、見える包帯が痛々しいくらいだ。





  ザザ……


「……」
「…」

「おお。巫女さん。何か用事か?」


「…酋長さんと世間話を少し。中に居る?」

「……」
「酋長と?」
「酋長は中に居るぜ。」





すれ違う前に。
ティアラとワイパー達は話を交わす。

カマキリとブラハムが、ティアラの問いに答える。ワイパーは無言。






「ありがと。…傷が早く治るといいね…」

「はは…!」
「お互い様だ。」
「………」


と。
ティアラは去り際にそう告げ、また歩き出す。
すると。


「待て!」

「―……!…?」
「…!」
「!」




ティアラは振り返る。
カマキリとブラハムも驚いた顔をしている。
呼び止めたのはワイパー。ワイパーはティアラを見ずに話をする。

二人はワイパーの事を考え、先に歩き出す。ティアラはワイパーの背中を見つめた。






「…いつ帰る?…」
「……」

「お前等は…いつ青海に帰るんだ…」
「今日…帰る。」


「…!?…」

「内緒の話。挨拶も何も言わない。それが海賊。」





自分達は黄金を持って逃げる予定。
その事はふせ、ティアラは帰る事だけを教える。

何故。
ワイパーは帰る刻を尋ねたのか。






「…答えろ。」
「…?」

「お前は…どうして海賊なんだ?」
「―……!」


「ゼウス一族の巫女でありながら…何故一族の外で生きている…?」

「……」


「お前が歴代の巫女と…境遇が違う事は分かる。
それでもお前は巫女だ…違うのか?」

「……それは…」






ワイパーは、ティアラに聞きたい事があったのだ。帰る前に聞きたい事が。

何故海賊なのか。

一族への誇りが強いワイパーは、ティアラの巫女としての責任や覚悟を知りたかったのだろう。

ティアラはその問いに、すぐに答えられない。
ワイパーはティアラの返事を待つ。









































「今のままじゃいけないと…思う。」

「…!………」


「けど…………
“意味”があると思うの。私がここにいる事…外の世界にいる事。」

「……」


「私のする事が全て正しいとは思わない。むしろ本当は……………駄目なんじゃないか…って……。」

「………」


「……」
「…………」






  サァ―……


二人の間を風が通る。
ワイパーの問いに曖昧な返事しか出来ないティアラ。だが、それが今のティアラの精一杯。

ティアラが返答出来ずに黙っていると、ワイパーが口を開いた。






「…これから新しい国の再建が始まる。俺達と空の者が…共存するために。」

「―……」


「変革を起こすのは覚悟が必要だ。闘うにしろ…向き合うにしろ……理解し合う事が…難しい。」

「…!……」


「………」
「…」


「国が新しくなったとしても、俺達の“シャンディアの誇り”は変わらない。
だから…お前も忘れるな…“一族の誇り”を…!」

「!!……」




ワイパーは歩き出した。




「次会う時まで“答え”を見つけろ。」

「……」


「それがどんなものでも、俺達はお前に味方してやる。」

「……ありがとう…
ワイパー!ありがと―……………!……!」





別れの言葉。
それはワイパーからの激励だった。振り返らず、手も振らずに、ワイパーはその場を去った。

その背中を見て、ティアラの脳裏にある言葉が響き渡る。




















 “夢はいいぞッ!!
  夢を持てッ!
  でっけぇ夢を!”


















ジャヤで。
クリケットがティアラへと向けた言葉。

夢を持て。
夢を見つけろ。
夢が見つかる。

夢を持つ仲間達とは違い、何もかもが半端なティアラには、とても重く痛い言葉だった。







「……夢…」


   ぎゅ……


「…私の夢………」






しかし。
あの時とは違い、その顔には陰りはない。

右手をしっかりと握り、ティアラも歩き出す。
ある想いを胸に、ティアラは酋長のもとへと向かった。
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